私がオペラオペラと言うので、「ふーんオペラってそんなに面白いものなんだ~、観たことも聴いたこともないけど、一遍行ってみるべ~か」と思っている人がいたら、ちょっと待って下さいね。はじめてのオペラは大事です。どこでもなんでもいいからオペラと名が付けばいいんだろと思っちゃ駄目です。色んな種類があるし、環境も考えないと。でないと、もうオペラなんか二度とヤダ!ってことになりかねません。慌てないで、慎重に選びましょう。


私が言うんだからまちがいありません。私は最初に生で観たオペラにすごく退屈して、回復するまでに20年も掛かったのですから。最初にちがった条件で接していたら、随分ちがったいたかもしれないのです。


それは、十年前の夏、まだ学生だったときのこと。場所はなんとローマのカラカラ浴場。世界的な歴史建造物、ローマ時代の遺跡です。すごいでしょ? 15年ほど前にはじめて3大テノールのコンサートがあったところです。  

そして出し物はアイ-ダ。第一人者ヴェルディ作曲の、もっとも人気のあるオペラの一つである傑作です。文句あるはずありません。



ここでご存知ない方のためにアイ-ダってどんなオペラかを簡単に説明すると、
アイ-ダはエジプトの女奴隷。でも本当はエチオピアの王女で、戦いに負けて捕虜になりエジプトの王女様の下女にされている。密かにエジプト軍の指揮官ラダメスと愛し合っているが、王女様も彼のことが好き。王女と結婚して王位を継いでくれと言われるが、アイ-ダを愛する彼にはできない。アイ-ダはエチオピア奪回を狙う父王の頼みでラダメスから軍の進路を聞き出し、機密をもらした罪でラダメスは死刑に。まだ彼を愛している王女にもう一度チャンスを与えられるが、アイーダは死んだと思っているラダメスは、彼女なしでは生きられないと死刑を選ぶ。真っ暗な地下牢に閉じこまれるのですが、そこにアイ-ダが先に忍び込んで待っていて、二人で愛を語りながら餓死するんです。どうです、ロマンチックでしょう?
(そういえば最近宝塚でアイーダやってましたね。半年前に日本で観ました。同じなのはストーリーだけで、音楽は別物ですが)


この舞台はローマの夏の夜の有名な風物詩で、セットも豪華、歌手も充分実力のある人たちだったはずだし、雨だったとか強風だったとかではなく、快適な真夏の夜の夢のようなセッティングの野外劇場。

オペラは多少の予備知識が必要なのですが、それが不足だったというわけでもありません。団体ツアーだったのですが、そこへ行くバスの中でかなり詳しいストーリーや見どころを説明してくれた人がいたのです。 その素晴らしさを聞かされた私たちは、はじまる前に引率の先生が 「長いし終わりまでいると遅くなって道も混むから途中で帰るからね」 と宣言したときは皆で反対しました。後で思えば先生は毎年行っているので一番よく状況をご存知だったということですが。

さて、やがてオペラがはじまったのですが、屋外でもあり、字幕は無し。当たり前だ。イタリア語のオペラをイタリアで観てるんだもの、例え字幕装置はあっても普通は使わないだろう。もっとも使っても理解できないんだけどね、何語であっても。まさか日本語ってことはないだろうから。

あの円安の時代でもとくに高いとは思わなかった程かなり安い席だったにちがいなく、一番後ろの方でした。歌手が豆粒くらいにしか見えない席で双眼鏡もないし、歌手は突っ立って歌うだけなので、今ストーリーのどへんなのかも理解できない。それどころか、何着てるのかも見えないので、どっちが王女様で、どっちが奴隷のアイ-ダなのかすらわからない! これじゃあね~・・。

舞台から遠すぎたのが問題でした。もしどんなに音楽が素晴らしくてもあんな場所ではマイクロフォン使用だし、音の面でも理想からはほど遠い環境でしたが、やはり舞台から離れすぎていたのが一番退屈した理由だったのではないかと今でも思います。


だから皆さん、生のオペラを観に行こう、でも前の方は高いから(たしかに日本では高いですよね)一番後ろでもいいやとはできれば思わないで下さいね。それでも行かないよりましだし、双眼鏡があればかなりちがいますが、それでも場合によってはテレビで観るほうが堪能できるかもしれません。


カラカラ浴場のアイ-ダは、エジプト軍の戦勝パレードの場面で本物の馬が出てくるのが売り物で(初演のときはたしかが出たゾー)、それもすごい勢いで舞台に走り出てくるので、昼間の観光の疲れもあってぐっすり寝込んでいた私たちもその音でいっぺんに目が覚めました。その場面が終わったらもう充分と知っている先生が 「さあ帰るよ~」 と言ったときは皆素直に 「ハーイ」 とバスにそそくさと乗り込んだのでした。


これが私のはじめてのオペラ体験。あの時代に生で観られただけでもラッキーで、総合的にはもちろん良い 思い出なのですが、小学生の頃からクラシック音楽が好きだった私ですら、オペラは退屈だと思ってしまいました。

それ以来オペラもコンサートも私はいつもなるべく近くの席で見ることにしてます。遠いと臨場感が味わえないからです。私がよく座るオペラハウスの安い席は横で上だけど舞台から遠くはありません。


 ・・でも私は映画でもやたら前で観たがるし、ちょっと変わってるのかもしれない・・・。


皆さん、一番後ろでもいいからお金と暇があったら観に行って下さい。

でも、どのオペラを観るかは重要ですから、それはまた後日お勧めします。