土曜日にテレビ生中継でユーロビジョン・ソング・コンテストを観ました。1974年にアバがウォータールーという曲で優勝して一躍世界中に知られるようになったイベントです。

年一度のこのコンテスト、私は20年以上見続けてきました。最初の頃と比べると随分変わったのですが、特に今年は面白い程はっきりと変動するヨーロッパの姿が反映された結果になりました。もうこれはただの歌コンテストではありません。


国の数が増えすぎて 

今年で50回目、ということはテレビ放映がはじまってすぐ国境を越えたこのイベントがはじまったのですね。最初は西側数カ国で小規模にやっていたのですが、徐々に規模拡大して、今ではテレビ中継の視聴者が2億人だそうです。

出場国が20ケ国ちょっとだった頃まではいつも同じ顔ぶれだったのですが、この10年程でロシアとユーゴスラビアが崩壊、分離して国数が急増。去年までは、最下位だった数カ国が翌年は出られずに他の国に譲っていたのですが、これでは一旦落ちると何年も待たなければならないので限界となり、今年は初めて準決勝が行われました。去年上位だった14ケ国は出場を確保されているので、木曜日に衛星テレビで放映された準決勝では25ケ国のうち10ケ国が順不同で選ばれました。
土曜日の決勝戦には24ケ国が出場。開催地は前年の優勝国で、今年はウクライナのキエフ。どこでも6、7千人が入れる会議場などで開かれ、国旗と歓声のお祭り騒ぎ。今年の優勝は下馬評通りギリシャで、トロフィを渡したのはウクライナ大統領。開催国は良いPRの場でもあり、そりゃあ張り切ります。



投票は、歌の良し悪しそっちのけで、お隣同士の助け合い

投票は、まず終了後すぐ一般の人が10分間電話して、その結果を国毎にまとめて発表します。実はこの発表集計場面がメインイベントなのです。

一位に12ポイント、2位に10ポイント、3位に9ポイント・・・・、11位に1ポイントまで点を与え、後はゼロ。それぞれの国が順番に画面に呼び出され、英語かフランス語で「デンマークに1ポイント~、スペインに2ポイント~、・・・」と言う度に会場や歌手が反応して大歓声。時間も掛かります。去年までは出場国だけが投票していたのですが、今年は39ケ国もあったので、これだけでたっぷり1時間以上掛かりました。

以前から、政治的な配慮が必要な国の間では高得点を与え合うという美しい(?)慣習があって、ギリシャとキプロスはどんなにひどい歌でも絶対にお互いを1位にして、ジョークのネタになっていました。まあこういうことは数が知れてるうちは冗談で済みますが、この頃はそれが横行し、それどころか主流にすらなってしまい、ちょっとまずいことになってます。

比較的最近参加した東ヨーロッパはもしかしたら「さて誰がお仲間で仲良しさんでしょうか?」という質問なのかと本気で間違えているんじゃないかと思うくらい、隣接する国ばかりが上位に来るのです。それを見た北欧諸国も、前はちゃんと歌の好き嫌いで判断していたのに、この頃は負けじと助け合い方針にしちゃったようで、もう完全に隣合う仲良しグループ同士の助け合い運動。かつてノルウェーは(言葉の壁も一因でしょうが)、ノン・ポワン(non point)の国として馬鹿にされてましたが、今では隣スェーデンやフィンランド、デンマークが投票してくれるので一定の点数は確保されてます。

票が入らないのは、海に面している国と助け合う必要の無い強い国で、今年の最下位はイギリス、スペイン、フランス、ドイツでした。しかも極端に低い得点で・・・。



これ以上政治的にしちゃ駄目よ


政治的な面が色濃く出るこの頃ですが、今年はもうひとつ事件がありました。レバノンが直前に出場停止処分を食らったのです。なぜかと言うと、イスラエルが歌っている間にテレビでコマーシャルを流すことにしたのがバレたからです。

大体イスラエルやレバノンがユーロに入っているのが不思議ですが、まあそうは言っても、イスラエルは前からのメンバーだし、周りで村八分になっているので入れてやってもいいかという気はするけど、レバノンは新参者、そこまで憎たらしい奴がいるところにわざわざ入って来るなよな~!! こんなとこに中東戦争を持ち込むのだけやめて欲しいです。そう、39ケ国という半端な数になったのはこれが原因で、本当は40国の筈だったのです。


英語 vs フランス語


私がこのイベントをかつてこよなく愛していたのは、英語以外の言葉が聞けるからでした。日本ではカンツォーネやシャンソンが好きでよく聞いてましたが、イギリスに来たら英語圏以外の文化に接するチャンスは少なくて、これは貴重な機会だったのです。ちょっと前シャルル・アズナブールはシャンソン歌手としては珍しくイギリスでも知られてましたが、ここではシャルルではなく同じ綴りの英語名チャールズと呼ばれて、歌うのも英語でばかり。彼の「フランス語訛りの英語」が人気だったのです。


10年ちょっと前までは「自国語で歌うべし」
という決まりだったので、珍しい言葉が数多く聞けてこれぞヨーロッパだったのですが、これだとマイナーな言葉の国は不利だというのでなんでもOKというルールが変わりました。

それで、どうなったと思います? いくら政治的経済的に力があるからと言ってもドイツ語はドイツ人以外使わないしましてや歌おうとしないのはわかりますが、ヨーロッパでは英語よりフランス語とかつては言われていたし、響きの美しい言語だからフランス語でやる国はあるんだろうなあと思っていたのです。


でも全然そうじゃなくて、圧倒的に英語なんですね~。今年英語以外で歌ったのは、フランス、スペイン、トルコ、クロアシア、セルビア・モンテネグロの僅か5ケ国。イスラエルは半分だけ英語でしたが。それ以外は東ヨーロッパも北欧も全部英語でした。


でも、一番びっくりしたのは、な、なんとドイツまで英語にしちゃったよ~! 


それに、得点を発表するときはフランス語か英語のどちらかを選ぶのですが、フランス語だったのはフランスとモナコだけ。さらに番組中に語る全てを英語とフランス語の両方にしなくてはならないので、総合司会者はいちいち全部通訳するわけですが、もういっそそんなルール変えちゃえば、って思ってる人も多いと思ますよ。でもそうするとほとんど全部英語になってヨーロッパらしさがゼロになってしまい、なんなのこれ?ってことになりますね。もうなってるけど。




これからどうすればいいのでしょうね?


よく見たら、いつのまにかイタリアが消えてるじゃないの? 

アホらしくなってこっそりいち抜~けたしちゃったんですね。歌を愛するイタリア人にはもう我慢の限界超してるよね、こんなの。

さて、今年ビリになった4者(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン)は、費用負担割合の多い国ばかり。さすがに大国意識と義務感で降りるわけにはいかないだろうから、来年は裏で根回しして、お互いに点数差し上げっこするしかないでしょうねえ? 「東は東で勝手にやってくれ、数で押し寄せて乗っ取れたらたまらんぜ」と思っている人もいるでしょうが、ヨーロッパが一つになっためでたい象徴に水を差すようなこと言える筈ないですしね。


これからどうなるのでしょう?

一番頭が痛い出場国決定に関してまず考えないといけないですが、例えば費用負担額により、一定以上出した国は常任理事国になって毎年無条件で出られるとか、いっそクジ引きにしちゃうとか、舞台でジャンケンポンさせるとか・・。



イギリスでの楽しみ方

イギリスではこれをまじめに歌のコンテストだと取ってる人はまずいなくて、茶化すためのイベントなのです。テリー・ウォーガンという元ラジオDJで、テレビのインタニュー番組で人気だった男性がなんとこれまで37年間テレビでコメントをしているのですが、彼がユーモアたっぷりにこきおろしたり皮肉言うのを楽しむわけで、彼無しでユーロビジョン・ソング・コンテストは成り立ちません。
でも、こういうお祭り騒ぎは傍観しているだけでは盛り上がりに欠けるので、できれば出場したいところですが、この選出方法ではお先真っ暗。BBCも困っているでしょう。



パフォーマンスは素晴らしいんですよ


たまの例外を除けば歌唱力のある若いプロ歌手が出て、バックのダンサーも技量容姿共に素晴らしい場合が多く、ふーんこの国ではこういうのがカッコ良いと思っているのか~という意外な発見もでき、充分見応えのある舞台です。今年はドラムが舞台に登場してリズムを強調するチームが多く、打楽器好きな私は特に楽しめました。

それにお隣同士の助け合いもせいぜい3、4ケ国。11ケ国まで投票できるので、残った点数は歌の好き嫌いで判断して政治面抜きで投票するので、結局は歌の良し悪しで優勝が決まることになるのです。だからかろうじてまだ音楽コンテストとしての面目は保っているいるわけで、良い曲さえ作れば優勝できるのです。今年のギリシャが良い例でした。


私も、例えアメリカン・ポップ・ショーになってしまっても、歌唱力のある人たちがライブで歌ってくれる限り、ずっと見続けるつもりです。