traviata


オペラなんて観たことのないけど、何か観てみようじゃないかと思っていらっしゃる方、でもはじめてのオペラ、一体何を観たらいいのと迷いますよね。


答は簡単。ヴェルディの「椿姫
に決まってます。これはオペラを知っている人のほぼ全員がそう答えますよ。


私はこのブログで椿姫を名乗っているし、音楽に関係ない他のネットサークルでも私は「椿姫さん」と呼ばれていて、思い入れのある名前だし、一番人気のあるオペラの一つですから、是非知って頂きたいです。


1853年にヴェルディが書いたこのオペラ、「三銃士」の作者デュマの息子のデュマ・フィスが実存の女性をモデルにした小説「椿を持った女」に基づいており、オペラの原題は「La Traviata」。堕ちた女と言う意味で、ヒロインは高級娼婦。娼婦と言ってもただの売春婦ではなく、高い教養を持ち、貴族や金持ちをパトロンにして、当時パリで政治家や文化人の集まる文化サロンのホステスをしていたという、今で言えば銀座の一流バーのママさんってところでしょうか。


椿姫という邦題は名訳だと思うのですが、ヒロインが椿の花が好きでいつも身に着けていたところからきています。当時のパリで一年中椿の花を調達できたのかどうか疑問ですが、実はこれは「白い椿なら営業中、赤い椿は体調により閉店」という彼女の商売用看板でもあったわけです。もっともこれはオペラには出てこなくて、私の覚えている限り、オペラの椿姫はいつも白いカメリアですが。 まあ、こんなことは知らなくていいんですけどね。生々しいので忘れて下さい。


私は子供の頃からなぜかこのストーリーが好きで、犠牲になって死んでゆく美しく若い女性が憐れで涙を流したものです。ストーリーは、娼婦でありながら真実の愛に目覚め、幸せを掴んだのもつかの間、やはりその身の上では許されるはずもなく、泣く泣く身を引き、肺結核で死んでしまうという、まるで新派のお芝居。

オペラでは人物の描き方が表面的なことが多くて感情移入できるのは稀ですが、椿姫は登場人物も少なくて等身大で理解、同情できるのが強みです。オペラにするときに当然話は少し変えられて、ヒロインの名前はマルグリットからヴィオレッタになり(歌にしたとき響きがいいですもんね)、原作では彼女を死をアルフレード(原作ではアルマン)が後から聞くのですが、当然オペラでは抱き合いながら死んで盛り上がります。


もちろんオペラにとって一番大事なのは音楽。おなじみの「乾杯の歌」をはじめ優れたアリアがたくさん出て来て、ヴィオレッタの悲しさ優しさが心に染みます。私は暗く悲しい前奏曲を聴いただけで涙が出てしまいます。

このオペラを観てもまだ「なーんだオペラってやっぱり退屈でつまんないや」と思う人は、即オペラ鑑賞は諦めましょう。キ~~♪っというあんな大声を聞いて不快に感じる人がいるのは不思議ではないですから、無理に体に合わないことをすることはありません。



では、何が起こるのかは、椿姫さんご自身に語ってもらいましょう。         ( )内は有名なアリアです


第一幕 (パリのヴィオレッタのサロン。シャンデリアきらめくパーティ)

今ね、パーティが終わったところなの。男爵やお友達がたくさん来てくれて賑やかに盛り上がったわ。(乾の歌} そこでね、アルフレードという若い男性に紹介されて、私のことを一年も前から愛していたと告白されたの。最近私の具合が悪そうだからと心配してくれて、僕がそばにいたらこんな煙草とお酒にまみれた自堕落な生活はさせない、空気のきれいな田舎で暮らして貴女の病気を治してあげるのに、とまで言ってくれた。こんな境遇の私なのに、真剣に想ってくれる男性に逢ったのは初めてで、びっくりしたけど、とても嬉しかった。


貧困から抜け出すために仕方なくこの道に足を踏み入れた私を神様はお見捨てにならなかったのね。身のほど知らずと言われようと、本当は誰かに愛されたくて密かにずっと願っていた私。彼がきっとその待っていた人にちがいないわ。生まれてはじめてのこの幸せ・・。(ああ、そはかの人か?)


駄目駄目、私ったらなに言ってるの? そんなこと叶うはずないじゃないの。私は汚れた女、愛される価値のない女よ。こうして贅沢の中でその日その日の快楽に身をやつすのがお似合いよ。 (花から花へ)

嗚呼、でも窓の外から幸せそうなアルフレードの声が聞こえる。最初は冷たくしたけど、彼が帰る間際に私が身に着けていた椿を一輪彼に渡して、これが萎れたら又来てくださる?って言ったら、飛び上がって喜んで明日来るからと去っていった彼。・・・私、私、この恋に賭けてみていいのかしら?!

 

第二幕 一場 (田舎の館で幸せに暮らす二人)


私はあれからすぐ全てを捨てて、あの汚れたパリの生活から抜け出し、しばらくこの田舎でアルフレードと暮らしているの。身寄りのない私にとって彼ははじめて持てた家族であり恋人で、惜しみない愛を与えてくれる(燃える心を)。彼の父親から色よい返事がないのと、生活費が底をつきそうなのは困ってるけど、愛があれば彼と二人でなんでも乗り切れる、そう信じて、信じられないくらい幸せな私だったの。

でも、やはり恐れたとおり、幸せは長く続かなかったわ。ある日、アルフレードが留守の間に彼の父親が訪ねて来た。最初お父様は、息子が性悪女に惑わされて身上をつぶすのではないかと思ってたいそうお怒りだったわ。でも、私が自分の財産を食いつぶして賄ってきたのと、私がアルフレードを真剣に愛していることを知って、父親のような愛情さえ示して下さった。

でも、アルフレードの妹の縁談が私のせいで壊れそうになって彼女が泣いている、辛いだろうが別れてくれと懇願されたの。私はアルフレードなしではもう生きていけないわ。でも、私のせいで清純無垢な妹を不幸にするなんてできるはずないじゃないの。彼の家族の幸せのために犠牲になってくれというお父様の願いを受け入れるしかなかったわ。私のように一度汚れた女にとって幸せは見果てぬ夢だったのね。


アルフレードを諦めさせるためには、彼が私を嫌いになるようにするしかないわよね。だから、前からいつでも戻っておいでと言ってくれてるパリのかつてのパトロンの男爵のところに帰ることにしたの。ちょうど私をやっと探し出した娼婦仲間からパーティの招待を受けていたから、アルフレードに置手紙をしてパリに向かったわ。

私が去って涙にくれるアルフレードをお父様は慰めたけど(プロヴァンスの海と陸)、パーティの招待状を見つけたアルフレードは怒って追いかけてきたの。


第二幕 二場 (フローラのパリのサロン)


私が男爵に伴われて到着したら、アルフレードも来ていたわ。今夜の彼はカード賭博で勝ちまくり、そのお金を皆で前で私に投げつけて、「この裏切り者の売女め、これで今までの借りは返したからな!」と罵ったの。それでも私はお父様との約束を守るために本当のことは言わなかったわ。お父様もそこに現れて息子を叱り、彼も後悔したけど、男爵が怒って決闘を申し込んだの。


第三幕 (家具も売り払ってガランとしたヴィオレッタの部屋)


私は肺病が悪化して、女中のアニーナに看取られながら死の床に着いている。お医者様ももう数時間の命と宣言しているわ。「アルフレードは決闘で怪我をして国外に行ってしまったけど、もうすぐ帰ってくるから、そしたらすぐ二人で貴女を訪ねていくから待っていて下さい。アルフレードには貴女が犠牲になってくれたことを話したから」というお父様からの手紙が私の唯一の生きる望みで、何度も何度も読み返したの。だけど、待てども待てども彼らは来ない。もう遅いわ、私はこのまま死んでしまうのね。神様、この堕ちた女にどうぞご加護を。

外はカーニバル、だけどきっとお金が無くて困っている人がいるから、アニーナ、僅かに残ったお金をその人たちにあげて来てちょうだい。そうしたらもう残りがなくなるって? いいの、私にはそれで充分だから。


えっ? 良いニュース? 嗚呼アルフレードが帰ってきたのね?! 
アルフレード、やっと会えた!!。 もう離さないで!! 愛しいヴィオレッタ、二人でパリに行ってまた一緒に暮らそうと抱きしめてくれた。 お父様も一緒に来てくださって、なんということをしてしまったのだと後悔して謝って下さった。愛する人たちに囲まれて嬉しいわ、今から教会へ行って神に感謝を捧げましょう。アニーナ、着替えるのを手伝ってちょうだい。


嗚呼、駄目だわ、私にはもうそんな力は残ってないわ。もうすぐ私は死んでしまう。アルフレード、私がまだきれいだった頃のこの小さな肖像画、貴方が将来結婚する清らかな女性に差し上げてね。そして私が天国から見守っていると伝えて。

・・・あら、とても不思議だわ、急に痛みが消えたの。 甦るの、私? なんという喜び!



(アルフレードの腕の中でこときれるヴィオレッタ)