kissin black & white


エフゲニー・キーシンが現役ピアニストの中では断然トップに決まってます!あの驚異的なテクニック、パワフルな左手、生演奏聞いたらもうびっくり仰天の迫力ですよ。私はクラシックファンとしてはラッキーなことにロンドンに長年住んでいるので、彼を何度も聴く機会があるし、他の有名ピアニストのコンサートも多いのでたくさん行きましたが、少なくとも技術という意味ではキーシンがぶっちぎりのトップ。CDでは良さが充分伝わりませんが。


他の追随を許さない超人的な指の動きは誰でもみとめるところでしょうが、彼はともするとそのテクニックを見せびらかす傾向があり、それが批判されることもあります。それはわからないでもありません。

でも、見せびらかして何が悪いのよ?!折角持ってる世にも稀な才能はケチらず目一杯ご披露して欲しいじゃないですか! 文句あるなら他の人もあれだけ弾いてみろってんだ!


もちろん彼は技術だけのロボットでも猿回しでもありません。彼なりの洞察力、情緒的表現、芸術性も備えた立派なアーチストだと思います。それに、ピアノ演奏も体力勝負、若い男性のエネルギーはすごくて、彼はいつもアンコールを延々と、それも目茶難しい曲を惜しみなく弾いてくれます。見せびらかすためにと言ってしまえばその通りなのですが、あの長時間の集中力だけでも驚嘆もの。

去年11月には、バービカンでロンドン・シンフォニー・オーケストラとベートーベンのピアノ協奏曲5つ全部を2回のコンサートで弾という離れ業もやってのけてくれました(コリン・デービス指揮)。一晩に休憩一回でコンチェルト3つですよ!すごいでしょ? それも疲れたそぶりも全く見せず。(やっぱり彼はロボットでしょうか?)

(コンチェルトを2曲弾くということに関しては、先月ダニエル・バレンボイムがある午後にブラームスを2曲弾いてくれて、これはベートーベンの比ではないほどの難曲なのでこれはこれで凄かったですが、バレンボイムはさすがにこれで精一杯という感じでした。当然ですが。詳しくはさようならバレンボイム先生 をお読み下さい。)


しかし、キーシンはまだ若いから(たしかの33歳、あの可愛い天才少年も大人になったものです)、まだ先は長いからと安心はしていられません。彼はロンドンに住んでいるそうで、他の人のコンサートやオペラを聴きに来たのを何度も見かけましたが、いつも母親(ときには父親も)と先生同伴で、ガールフレンドなんていないようです。一度オペラハウスで、馬蹄形の客席の向こう側にご一同様がいて、ボックス席に年上の、でもまだ若いきれいな女性が一緒に座りキーシンと頬寄せ合って親しげに話していたので、おおやっとガールフレンドでもできたのかしらんと思ったのですが、ちがったようです。

先生というのは、彼が神童と言われた子供のときから師事しているロシア人の女性で、彼女は家族同然、ずっと一家と一緒に住んでいます。技術的な先生と言うより、精神的なよりどころなのでしょう。でもかなりのお年を召しているので、彼女がお亡くなりにでもなったとき、精神的にどう影響を及ぼすのか心配です。恋も知らず(たぶん)コンサートホールだけし知らない未熟な彼は、恋愛や親しい人の死に遭遇して壊れてしまうかもしれないからです。

でもその心配は期待でもあるわけで、悲しさ切なさを知ったキーシンが一回り大きくなって舞台に現われてくれるかもしれないのです。技術的な上達は望めなくても充分ですが、人生経験が豊かになった彼の、それを反映する素晴らしい演奏を是非聴かせて欲しいものです。


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えー、いつも読んで下さっている方はきっと「なんで急にキーシンなんか出てくるねん? コンサート行ったわけでもないやろに」と思っていらっしゃるでしょうが、これはこのアメーバブログの音楽カテゴリーのトラックバックステーションに参加するためです。今ピアニストというテーマでやっているので。音楽といっても、ポップスもジャズも歌謡曲も浪花節もいっしょくたにされていて、こういう機会でもないとクラシック音楽ファン仲間を簡単にピックアップできないので、これは互いを発見する良い機会なのです。先日のピアノマンの記事もそのためでした。