先週は2回、着物でロイヤルオペラハウスに行きました。

月曜日は、一緒に行った着物師匠の春さんが落ち着いたピンク色の単の小紋に薄いピンクの夏帯という初夏らしい装いだったのに対し、私は実家から持って来た紺地で花模様の袷の京紅型に銀色の袋帯という暑苦しい組み合わせ。二人の色のコンビネーションを第一に考えたつもりなんですけどね。


木曜日は、友人は渋いオレンジ色の袷の江戸小紋に同系色の金糸銀糸入りの豪華で格調高い袋帯、私は水色地に細かい花模様のウールの着物に薄っぺらいオレンジ色の名古屋帯。これも二人セットで華やかな色合いになるようにというだけがポイントで、季節感は無視で着物の格もちぐはぐ。でも、ここはロンドン、涼しいし、これでもいいことにしましょう。

オペラハウスでは多くの「おやっ!」という視線を感じ、目が合うと微笑みかけてくれる人も結構います。何人かはわざわざ近寄って来て「How lovely you look!」と言ってくれました。「You have made this place very special tonight.Thank you」とまで言ってくれた女性もいました。「貴女たちのおかげで一段と華やかになったわ」と言う意味ですが、どうです、なかなかの誉め言葉でしょう? 


しかし、これは日本でも同じで、着物の人がいるとよそ行き感というか非日常的雰囲気になりますよね。結婚式に招かれた未婚の若い女性は華やかな振袖で場を盛り上げることが義務ですからね。

木曜日は舞台袖とも言えるステージからとても近い席で、指揮者の顔が斜め正面から見え、観客からもよく見える席に座ったのですが(前列だと50ポンドですが、後列だったので22ポンド)、なんだか皆がこっち向いてるなと感じました。私はかつてよくこの前列に座ったのですが、いくら気張ってドレスを着ていてもそんな風に感じたことはなかったので、気のせいではなく、「ほー、珍しいね、着物着てる若い女性(遠目めにそう見えるにちがいない)が二人いるよ」と見つけてくれた人がたくさんいたのです。 着付けに一時間半も掛けて苦労した甲斐がありました。何度もやり直して、でもあちこちすぐにゆるんできて、大変だったんですから。

来週もまた同じ人と同じような席に座るので、今度は後ろの壁の色と対照的な色の着物にして更に目立つようにしてやろうじゃないのと、すでに着物選びの相談がはじまりました。こんなことなら、実家から何を持ってくるか選んだときに、「いくらなんでもこれは嫁入り前の娘が着るものだがね~」と思って置いてきた何枚かを持ってくればよかったわ。どうせ箪笥の肥やしになってるだけだし勿体無いこと。

オペラハウスを着物でスペシャルな場所にすることができるとすれば、プッチーニの「マダム・バタフライ」のときがベストでしょうが、残念ながら3月、4月にやったばかりなので、暫くはなさそうです。一緒に行った友人はご主人と観にいったそうですが、彼女が着物を着たいと言ったのに、英国人のご主人が照れくさいからでしょう、嫌だと言う事で実現しなかったそうです。

シャイな英国男性は多くて、うちのトーチャンもその一人。そう言えば、数年前に彼の会社の入社XX年記念で、何十組かのカップルをロイヤルオペラハウスの一番良い席にご招待、幕間にはシャンペン付きという地味なIT関連会社にしては珍しいイベントがあり、私はもちろん「きゃー、嬉しい。着物にしようっと!」と思ったのですが、そんな目立つことは嫌だと言うトーチャンの反対でボツ。そのときはバレエでしたが、そういうとこって目立つための努力すべきじゃないんでしょうかね? 着物が駄目なら赤いチャイナドレスにすると言ったらトーチャンは「妻が香港から来た中国人と思われるのは嫌だ。植民地の人と結婚するのは一段低く見られるから」なんてことまで言ったけど、結局折れてチャイナドレスにしたら、案の定皆に香港から来たの?と聞かれました。 ほら、だから着物にすればよかったのに、ね。

先月バレンボイムのピアノリサイタルに私が着物で行きたいと言ったときも露骨に嫌な顔されたけど、席も離れているから他人の振りすればいいでしょということで着物着ちゃいましたよ。人種の違うカップルはそれだけでどうせ目立つんだから、と私はいつも言うのですが。でもこれ日本人カップルでもご主人がシャイだと同じかもしれませんね?