マギー奥様の実家のマナーハウスに滞在中の一番の思い出というのは、残念ながら楽しい出来事ではなく、怖ろしい体験です。

と言っても何か実際に起こったわけではなくて、私の内なる恐怖心。


manor house 4 私が泊まった部屋


ある夜、マギー奥様夫婦とご両親は揃ってどこかにお出掛けになり、この大きな家に私と4ケ月になる赤ん坊のジェイムスだけが残されました。帰りはとても遅くなるからということで、上流階級の人たちは概して夜更かし生活なので、彼らが遅いといったらまず明方ってことでしょう。


こんな古い家に一晩とり残されるんですよ~。怖いでしょう? 


500年の間には実に色んな事があったことでしょう。一体ここで何人の人が死んだのでしょうか? 中にはきっと殺された人だっていますよね、これだけ立派な家なんだから、財産目当てとか代々の恨みとかで。当時は知らなかったでしょうが、あの辺りは、クロムウェルの内戦の激戦地だったそうで、大量殺戮もあったかもしれない。


うまく成仏できない人が、自分が生きてた頃と同じ家具や調度品、絵画などあって何も変わらない雰囲気の中、幽霊として簡単に居座れそうじゃないですか? 居心地よさそうですよ。


私は霊とか死後の世界とか信じないのですが、まるでホラー映画そのままのセッティングの中で、結構怖かったです~! 信じないと言っても、頭でそう思っているだけで、実はちょっとはそういうことあるかも、と思ってるような気もするし。

・・・そこへいくと典型的な理科系人間ののトーチャンは筋金入りで、非科学的な事は「ナンセンス!」の一言で一切排除・・・。


この屋敷の敷地は、そうですね、野球のグラウンドの軽く5、6倍、いやもっとあるかも。だから隣の家ったって随分遠いんですよ。叫んでも絶対聞こえない距離。その遠くの村の家の灯りがず~っと遠くにでもまだ宵の口は見えてたかもしれないけど、遅くなったら外は完全に真っ暗。強盗が入るかもということは全然考えなくて、遭遇するならこの家に「長~く住み続けてる人」だと思いました。遭遇はしなくても、気配を感じるとかね。たしかその夜は風もなく外は静かだったのですが、古い家ってときどきギシ~ギシ~ってきしむ音がするんです。だから音に対して一番怖れを抱いたという覚えがあります。

気分を紛らせるためにテレビでも、なんてこともできません。当時深夜放送なんてなかっただろうし、たとえあっても部屋にはテレビなかったので、下の暗い居間になんて怖くていけるもんですか。 第一、どこにテレビがあるかなんて知らないわ。あの家でテレビ観た覚えないもんね。そういう雰囲気じゃないのよ。そういえば部屋にあった古い本をつい読んでしまったわ。それがぴったりに思えるのよね、あんな家では。


でも幸いひとりじゃなかったのが大きな救い。寝てるだけの赤ん坊でもいてくれるだけで心強いのなんのって。だからジェイムスのベビーベッドがある部屋のベッドに横たわって彼の寝息を聞きながら、早く朝にならないかなあと待ちながら長い長い夜を過ごしました。

因みに、イギリスでは親は赤ん坊とは生まれたときから別の部屋で寝ます。日本式に一緒に寝ようとした私はトーチャンと揉めたものです。


tillotsons   2  ジェイムス



これを書いてる今、トーチャンと娘はジーチャンとこに行って留守なので、家の中には私一人。でも小さな家だし、全然怖くないです。semi-detachedの我が家は隣の家とくっついてるので壁のすぐ向こうに人がいるしね。


(マナーハウス滞在記はまだ続きます。おそらくあと一回)


ところで、タイトルの「おそがい」という言葉の意味がわからない人もいるかもしれませんね。

「おそぎゃー」とも言い、名古屋弁で「怖い、恐ろしい」ということです。