11月3日、バービカンのルネ・フレミングのリサイタルに行きました。

rene flemming r fleming


私は彼女を何度も生オペラで見たこともあるし 、一年に一度くらいやってくれるリサイタルも欠かさないし、CDも何枚も持ってる程のファンで、あの甘~い声にはいつもうっとり。とくにリサイタルはいつも素敵なドレスも着てくれるし(これはクラシック音楽では珍しいこと)、いつも楽しみです。先回はアルマーニだったかベルサーチだったか忘れましたが、とても凝った金と黒のドレスでした。上の写真の裏がピンクのも見た覚えがあります。


今回のリサイタルも気合を入れてすぐ切符買ったので、前から2列目のほぼ真ん中という良い席(枚数割引後23.8ポンド)を確保して、3月からずっと待ってました。キャンセルにならないことだけを祈って。7月のROHでのオテロはキャンセルされてガッカリしましたからね。


この日は、彼女を生で聴いたことがないというブログ仲間のSardanapalusさん をお誘いして、着物ではなく普通の出勤服で行きました。一人で着物を着る勇気はなかなか出ないでので。


今日のセレブ観客

まず、はじまる前に、いつものように後ろを向いて「今日は誰か有名人来てるかなあ?」と眺めたら、いました! ピアニストの内田光子さんと、ロシアの銀髪男ことバリトンのディミトリ・ホロストフスキー。ホロストフスキーはダサイ眼鏡を掛けてましたが、あのトレードマークの輝くばかりの銀髪はすぐ彼だとわかりました。今日は短めの髪でてっぺんをスパイキーにしてましたが。後で休憩時間に見ると白いYシャツに太い縦縞模様のなかなか洒落た黒いスーツを着てました。奥様はこの寒いのに薄っぺらでシンプルな肩紐だけの黒いカクテルドレスだけ。オペラハウスでは冬でもそういう人結構いますが、華やかに欠けるバービカンでは珍しいスタイルです。彼女はすらっとして日焼けしてるので季節外れでも素敵でしたが。


ディミトリは、最近よくルネ・フレミングとはオペラで共演しているので、仲良しなんでしょう。来年8月のNYメト引越公演の椿姫 にも日本で二人一緒に出ますよ。ルネより年下の彼が椿姫の恋人のお父さん役ですけど。


内田さんとディミトリは初対面だったらしく、内田さんと一緒に来てた男性が紹介して休憩時間にバーで歓談してました。


ルネのドレス

さて、コンサートがはじまり、ルネ・フレミングはゴージャスなヴィヴィアン・ウエストウッドのドレスで登場。焦げ茶色と薄茶色とオフホワイトのタフタを適当に切って無理やり体にはみ出して縫い付けたような風変わりな、でも全体のシルエットはエレガントな19世紀風の典型的なウエストウッドスタイル。

後で最近ウエストウッド自身がこれと少し色の割合と縫い付け角度はちがうけど同じ布地でできた基本的には同じデザインのドレスをパーティで着てるのを雑誌で見ましたが、そりゃ年齢的にも容貌的にもルネの方がぴったりで100倍素敵です。

至近距離の席の私には、チカチカ光るふくらんだスカート、大きなヒトデ型のガラス・ブローチ、大きなイヤリング、くしゃっとカールした金髪、すべてよく見えましたが、もうキラキラと輝くような美しさ! 


一番驚いたのは、ほっそりと変身したこと。前回みたときより軽く10キロは減ってる!美形だけどちょっぴり太目だった彼女、今やそれも克服して、美人度更にアップ。

そういえば、一時は見るたびに太っていたアンジェラ・ゲオルギューがあるとき急にほっそりして美しさを回復したことがあったけど、華やかな歌姫としてのステイタスを奪い合ってるライバルの痩身ぶりにルネも刺激を受けて負けじと頑張ったのかも、と私は思ってしまいました。

共に40代の二人、芸にもますます磨きが掛かって素晴らしいことです。


今夜のプログラム

そんな華やかな舞台姿であれば、派手なオペラのアリアがお似合いなのですが、さにあらず、今夜のプログラムはかなり地味。そしてある意味とても冒険的。17世紀のイギリス人ヘンリー・パーセル、19世紀のドイツ人シューマン、20世紀のドイツ人アルバン・ベルグ、そして現存のアメリカ人二人アンドレ・プレビンジョージ・クラム(Crumb)を英語とドイツ語で歌ってくれましたが、統一感のない妙な組み合わせ。


彼女自身が「なぜこんな選曲なのか不思議に思われるでしょうが、共通項は私の思い入れ」と説明してくれました。Crumbという名前、私はははじめて聞きましたが、彼女の先生が彼の歌をプレミアしたこともあるという関係で、音楽学生のころによく練習させられて親しみがあるのだそうです。Crumbの曲はアンプ付きピアノ伴奏ということで、マイクをあちこちに組み込んで、ピアノ伴奏者は鍵盤を弾く以外、弦を直接つまびいたらい縁を叩いたり、ルネは蓋の中に頭を突っ込んで溜息ついたり。


私はルネは新しい試みに興味があるのは知っているし、現代音楽普及に貢献しているのは評価しますが、なにもロンドンまで来てそこまでしなくても、という気はしました。それにルネの声は前衛的な音楽には適さないので、ごく普通に美声を聞かせ欲しいと思ったのは私だけではないと思います。


だから、最後のシューマンの歌曲になったときはほっとしました。それまで、シャープで挑戦的な歌い方のものが多くて、それはそれでオペラでは聞けない彼女のすごいテクニックに接することができて感心したけれど、感激するのはやはり彼女らしい甘い声でしっとり歌ってくれる曲ですもの。


馴染みのない曲ばかりではありましたが、今が旬の超一流のパフォーマンスでやんやの喝采でした。


そうだ、ベルグの曲のときにピアニストがまちがえて音符を2枚めくってしまい、ルネに注意されてやり直すという珍しいアクシデントもありました。音符めくりの人がなぜかいませんでしたからね。


主な曲目は下記;-

Henry Purcell(1659-1695) - The Blessed Virgin's Expostulation Z196/Sweeter than roses Z585他3曲

George Crumb (1929生) - Apparition

Andre Previn(1929生) -The Giraffes Go to Hamburg

Alban Berg(1885-1935) - Five Songs to Picture-Postcard

Robert Schumann(1810-1856) - Mondnacht Op.39 他7曲


アンコールはベルグと、プレビンの「欲望という名の電車」からのアリア、他にドイツ語のアリア一曲。そう言えば、「欲望・・」はこのバービカンでルネ主演で観ましたが、歌も芝居も素晴らしかったです。