3月7日にエフゲニー・キーシンのリサイタルに行きました。


彼がベスト

彼は私が世界一上手だと信じるピアニストで、私の熱い想いは以前の記事「キーシンが現役トップ 」 でわかって頂けるでしょうが、ロンドンで年に一回のリサイタルをいつもとても楽しみにしています。毎月あれば、例え100ポンドでも欠かさずに行きます!他の人のコンサートやオペラを観に来るキーシンを何度も見かけたこともあり、ロンドンにも住んでいるようなので、もっとしょっちゅうやってくれればいいのに~、という程好きです。あの驚くべきパワフルな超人的テクニックはすごい迫力で、人間がこんなことができるのかと感動モノ。リサイタルだけではなくオケとのコンチェルトもほぼ全部聴きに行くので、20回くらいになるでしょうか。日本でも豊田市のリサイタルに行ったことあります。


キーシン2


今回のコンサート


<曲目> Beethoven - Sonata in C major, Op.2 No.3

      Beethoven - sonata in E flat major, Op.81a ("Les adieux")

      Chopin - Four Scherzos No.1 ~ No.4


いつものロイヤル・フェスティバル・ホールが改築中のため、今回はバービカン・ホールだったのですが、一年前に買った切符は、残念乍ら最前列は逃したものの、2列目のピアノ寄りほぼ真ん中というベスト席で彼からの距離は3メートルちょっと。下から見上げるこの席からはキーシンの横顔と指の動きと鍵盤が動くのがばっちり見えるのは勿論のこと、弾きながら唸る声が邪魔になるくらい聞こえました。メロディを口ずさむピアニストはたくさんいますが、彼は外れた音で静かな箇所でウーンウーンとうるさいくらい唸っていたのです。


まるで苦しんでいるかのように体を動かすのを見ると、早くテンポの速い部分にいきたいと焦っているようにも私には思え、今回はいわゆる「歌う」部分がそんなわけでとても重くて暗くて聞いていて辛くなるほどでした。彼は技術的には優れているが感情面がおろそかであると批判されることが多いのですが、いつもはそうは思わない私も今回ばかりはそうかもしれないと感じてしまいました。おろそかというよりは力が入リ過ぎてぎこちなかったということですが。



その代り、速い部分はいつものように素晴らしくて、ショパンのスケルツォのパワフルだったこと!彼の左手は誰よりも力強いですからね。病弱なショパンが自ら弾いたときはとてもこんなに力強くは弾けなかったにちがいありません。


アンコールはショパン、シマノフスキー、リストと今回はたった3曲しか弾いてくれず、アンコール男の割には失望でした。会場の広さと曲数を比例させてるふしもあるので、2千席のバービカンではこれくらいが適当と思ったのでしょうか?

その中ではリストのハンガリー狂詩曲第10番が圧倒的で、このド派手な技術ひけらかし曲は彼のもっとも得意とするところ。聴衆の女性たちがあまりの興奮で失神したというリスト自身の演奏もかくやと思われる息を飲む華麗なテクニックのオンパレードでやんやの喝采。そう、キーシンはこれでなくちゃ!


今までとこれから

彼の演奏で一番よかったのはおそらく7、8年前のWigmore Hallのリサイタルで、彼を生で聴いたのはそれが初めてだったので特に感動したということもあるでしょうが、キーシン自身が一番気に入っているコンサートのひとつに数えていましたからやはりなにか特別なものがあったにちがいありません。全部ショパンでしたが、あの狭いホールでのパワー炸裂はすさまじかったです。


キーシンはまだ34歳ですがすでに技術的には極めているのでこれ以上の上達は望めないし、こう何度も聞いているとさすがに新鮮味も失せるのは仕方ないでしょう。

でもやはりこんなすごいものを見逃すわけにはいきませんから、ロンドンで弾いてくれるときはかぶりつきで声援するつもり。


次は9月のLondon Symphony Orchestraとの共演のシューマンとモーツァルトのコンサートふたつ、そしてリサイタルは来年の3月。3つともすでに切符は調達済み。今年は他のピアニストも結構聴きに行く予定です。去年はオペラばかりでしたが、今年はコンサートを増やします。