1月30日、ロイヤルオペラハウスにヴェルディのIl Trovatoreを初日に観にいきました。

マルセロ・アルバレスが出るんですもの、楽しみに待ってたんです。



1852年作のヴェルディ中期の傑作で、ヴェルディの中でも私が一番好きなオペラのひとつです。全編流れるような美しい旋律とリズムに満ちていて、これほどうっとりとさせてくれるオペラはありません。



遠くから撮ったのでピンぼけですけど、クリックで大きくなります


但し、ストーリーは複雑にして荒唐無稽。映画の宣伝文句風に言うと、「美女をめぐり兄と弟が対決!恋の三角関係と先代からの因縁めいた復讐劇が絡み合い、最後は悲劇的な結末」となるのですが、「普通はそんなことせえへんやろ?」というような現実離れした出来事が続き、しかも進展ペースも早いので、感情移入は難しいです。


なので、あまり拘りたくはないのですが、一応書いておきますと・・・


15世紀のスペインのアラゴン地方が舞台で、まず登場人物はというと、


ブタアズチェーナ(メゾ・ソプラノ)

ジプシーの老婆で、先代伯爵の弟息子を呪い殺そうとしたとして母親が火あぶりにされたことを恨んでいて、いつか復讐をと狙っている。火炙りのとき腹いせに伯爵の息子を火の中に放り込んだつもりが、間違えて自分の息子を投げ込んで焼死させてしまい、生き残った伯爵の息子を自分の子供として育てた。


クマルーナ伯爵(バリトン)

亡くなった父親から、弟は生きている筈だからと言われて探している。宮廷女官のレオノーラを愛しているが、つれなくされて、恋敵の吟遊詩人マンリーコを恨んでいる。


わんわんマンリーコ(テノール)

アズチェーナの息子。ジプシーで吟遊詩人(流しのシンガーソングライター)。ルーナ伯爵とは政敵勢力グループのリーダーもして二束のわらじを履いている。レオノーラと愛し合っている。


ネコレオノーラ(ソプラノ)

伯爵から愛されていながら、得体の知れない流しのニイチャンに恋している宮廷女官。



・・・・ そして、こんな人たちが起こす支離滅裂な行動とは、・・・


①暗闇の逢引で、レオノーラは伯爵とマンリーコをまちがえて(兄弟だもんね)、伯爵に愛を告白。「あっ御免、まちがえちゃったとすぐに気付くと、マンリーコは「そうだと思った。それならいいんだよ」と。しかし顔に泥を塗られて怒った伯爵はマンリーコと決闘してマンリーコは負傷。


②ジプシーの野営地でアズチェーナは火炙りになった母親のことを語り、そのとき間違えて自分の赤ん坊を死なせてしまったと言う。「えっ、じゃあ僕はママのほんとうの息子じゃないの?」、「いやいや私は時々あらぬことを口走るだけ。お前は私の息子だよ。」と言われて、ちょっと疑いながらも、「そうだな。ママは可愛がってくれたもんな」とそれ以上は追求せず納得した様子。


③決闘でマンリーコが死んだと思ったレオノーラは修道尼になることに。そうはさせじと伯爵が修道院に彼女を誘拐しに来て、話を聞きつけたマンリーコも現れる。二人はまた闘い、マンリーコがレオノーラを連れて逃亡。


④アズチューナは伯爵陣営にふらふらと一人で舞い込み、古参兵士にあのときのジプシー女だと見破られて捕らえられる。


⑤マンリーコとレオノーラが結婚しようとしているときにアズチューナ逮捕のニュースが届き、マンリーコは母親を救いに行くが捕らえられ死刑を宣告される。


⑥「マンリーコを助けてくれたら私はあなたのものになるわ」とレオノーラが伯爵に交換条件で命乞い。そしてこっそり毒薬をあおる。


⑦マンリーコの牢獄に現れたレオノーラが「早く逃げて!」と言い、「伯爵に身を売って俺を助けたんだろう、この買女め!」と言いあっているうちに、「アラっ、思ったより早く毒が効いてきたわ~」と倒れるレオノーラ。事情を知って謝るマンリーコと怒る伯爵。


⑨レオノーラ死亡。それまでのんきに寝ていたアズチューナが「ちょっと待って」と言うがすでに遅く、マンリーコは即刻死刑。(間に合ったら何を言うつもりだったんだろうか?)。


⑩「今あんたが殺したのは自分の弟をだったんだよ。ざまーみろ。お母さん、復讐したからね~」。



  

「ねえ、僕はほんとの息子じゃないの?」    「私とお前は親子だよ。体型が同じだろ?」

「そうだね、ママ」


カゼね、だから言ったでしょ、葉茶目茶な話だって。


えーっ、まさか~っ!

自分の出生の秘密はどうでもいいわけ? とか

毒薬を飲むのは無事に逃がしてからでも遅くはないんじゃないの? とか、

もしかしたら自分の弟かもと思わないわけ? 

とか突っ込んでるうちに話はどんどん先に進み、主役カップルは死体に。


ま、オペラのストーリーなんて歌うための単なる言い訳ですから、深く考えたりしないように。



  メガネ演出 Elija Moshinsky

  かさ Nikola Luisotti

  わんわんManrico Marcelo Alvarez

  ネコLeonora Catherine Naglestad

  クマCounto di Luna Anthony Michaels-Moore

  ブタAzucena Stephanie Blythe



家舞台と衣装くつ

19世紀に読み替えられていて、舞台セットはガラス張りの修道院やヴィクトリア時代の工場風等、2002年の新プロダクションのときには結構驚いたものでしたが、宮廷も牢屋もすっきりとはしているけれどなんか大雑把な舞台です。衣装はまともで面白味は無し。丸ちゃんの赤シャツを見て前回のホセ・クーラを思い出しましたが、体型がちがうとまるでちがう衣装に見えるものですね。



音譜パフォーマンス

わんわんマンリーコ

(人の言うことを素直に信じるマンリーコ。それで、人生の機微を高尚に唄いあげる吟遊詩人が勤まるのでしょうか?)

世界的アルゼンチン人テノール、マルセロ・アルバレスはこのブログでは丸ちゃんと呼びましょう。(フルネームは丸セロ・豚バレスまたはデブバレスです)。

ご存知、私の一番のご贔屓のテノールラブラブ。今回も早く彼が聞きたい一心で初日に駆けつけましたわ。もちろん一回じゃあ物足りないから、3回行きますよぉ。


一回目は姿はよく見えないけど近い席より声はよく聴こえるupperslipsの11ポンドの席で。まず流しの途中らしく、舞台裏で歌うのが聞こえるんだけど、それだけで、よし今日は好調だ!と安心。登場すると胸がドキドキして、後は丸ちゃんが歌ってる時はずっと幸せな身震いとでもいいましょうか、天井桟敷席でメロメロになっていた私です。

やっぱり私はフロレスよりも丸ちゃんが好き。


上の方から見下ろす席だったので二重アゴも出っ腹も気にならず、黒めのメイキャップのおかげで顔も引き締まって見えたし、出るたびにデブになる一方だったのが、少なくとも今回は現状維持で済んだように見えました。容貌は先回のホセ・クーラの精悍さには敵う筈もないのですが、私は丸ちゃんの方が好みだから。


でもねえ、彼の体型にすっかり慣れてしまったし「太っても愛してる」と無理に言ってるけど、本音は体重80キロ以下の丸ちゃんを見てみたいですよ。折角ハンサムなのにあの体じゃ勿体無いし、人前に出る仕事なんだから、節制して不快なものを見せないようにすべきではないでしょうか。

ホセ・クーラさん、同じアルゼンチン人テノールのよしみで貴方のボディビルの先生を紹介してあげて下さいませんか?


私が行くあと2回、この絶好調を保つために、体調に気をつけてね。去年の「トスカ」のときみたいに食中毒でキャンセルしたり、「ラ・ボエーム」のときみたいに(多分風邪でしょうが)声の張りをなくしちゃ駄目だよ~!



 「マンリーコ、生きてたのね!」 
「尼寺に行くなら俺が死んだって確かめてからにしろよな」 



ネコレオノーラ

(早トチリで嘘つきで過激。伯爵には「あんななんか嫌いよ」とはっきり言うキツイお嬢様)

Naglestadが実は私の悩みの種だったのです。だって彼女は去年のBキャストのトスカだったとき、我慢できないくらい不快な声でしたもん。丸ちゃんは何度も聞きたいけど、果たして彼女に耐えられるかどうか自信ありませんでした。


ということで耳をふさぎたくなるような気持ちで恐る恐る聴き始めたところ、これがまあなんと、トスカのときとは打って変わったまろやかで優しい声だったこと。あの日のトスカが不調だったのか或いはトスカ役は彼女に合わなかったのか・・・。


期待があまりに低かったせいか、私には意外な驚きとも言える美しい声に聞惚れたのですが、残念ながら高音が不安定なせいもあり、4人の中で最低と叩かれた批評が多かったようです。この中では歌的に一番難しい役なんだから大目にみてあげないといけないと思うんですけどね。2002年の下手クソなレオノーラのVeronica Villarroelよりはずっとましだということでは意見は一致すると思うのですが。



流しの仕事を終えて早く逢いに来てね

 


クマルーナ伯爵

(レオノーラへの恋心で胸一杯の伯爵は、殺す前にマンリーコが弟だともしわかったら、レオノーラをあっさり譲っただろうか?譲るったって、彼女があんたなんか嫌だと言ってるんだけどね。でもマンリーコがいなくなれば彼女は自分に振り向くと思ってる愚かな彼。そういう男は(女も)は世間にはたくさんいるんだろうけど・・・)

Antony Michaels-Mooreはイギリス人なのでROHではつい身びいきで点が甘くなってしまうし、線が細いながらも全力で努力しているのがわかるので悪くは言えないような気がします。今回も実力の全てを出し尽くして、なんとか足を引っ張らないように頑張ってます。


2000年のトスカのスカルピアでは、アラーニャとマルフィッターノが相手ではとても太刀打ちできなくて全然迫力無かったですが、2002年のマクベスではその弱々しさが幸いしてグレギーナのマクベス夫人に振り回されるマクベスがぴったりでした。


今回もいつもパワー全開で一本調子なのが一流と言えない点なのですが、ルーナ伯爵はそれなりに合ってるし、バリトンとしては聞かせどころの多いこの役をコベントガーデンで歌わせてもらえてよかったね。彼が出ると聞いたら、私は特に聞きたいとも聞きたくないとも思わない個性のない中堅歌手です。



このハゲよりあのデブの方がいいのか?


ブタアズチェーナ

(伯爵家に対する恨みと、育てたマンリーコに対する愛情との間で苦しむアズチェーナはこの中では一番ある意味まともでやりがいのある役なのでは?)

アメリカ人メゾソプラノのBlytheには仮面舞踏会のウルリカ役でも豊かな声量で圧倒されましたが、今日の凄さと言ったら!ROHで聞いた女性の声で一番大きかったです。

4人の中で誰が一番印象的だったかと聞かれたらアズチェーナだと答える人が一番多いのではないでしょうか?あんな声が楽楽々と出るだけでもびっくりなのに、もちろんそれだけではなく、感情を込もり余裕のアズチェーナです。

彼女、カルメンもやるそうですが、それは音だけにしてもらいたい体型で、ビジュアル的には適役は限られていますけどね。



オペラに相撲取りの役がないのは残念



DASH!来週も再来週も行くから、丸ちゃん待っててね~!



   

              おやしらず 人気ブログランキング  宇宙人