6月14日、ロイヤルフェスティバル・ホール(以下RFH)にアルフレッド・ブレンデルAlfred Brendelのピアノ・リサイタルを聴きに行きました。
が、本当の目的は爺さんの弾くピアノではなくて、(だって、何度も聞いたけど、一度も上手いと思ったことないから)、2年間の閉鎖後、改築オープンとなったRFHを見ることでした。50数年による老朽化と、いつも批判されていた音響を改善するための工事で、約200億円注ぎ込んで改修したのですから、どうなったか早く見たい聴きたいじゃないですか。
オープン初日はここを拠点とする4つのオーケストラが出たという大規模大きいコンサートだったのですが、それは切符代が滅茶高かったし、私がRFHに聴きに行くのは主にピアノ演奏なので、これを個人的お披露目コンサートにしました。閉鎖前の最後のコンサート がやはりブレンデルのリサイタルだったというセンチメンタルな理由もありましたし(本人はさぞ感慨深いでしょうねえ)。
ロンドン・アイもすぐ近くという好ロケーション。
ところで、見えますか、ROHの屋根の上の隅っこに立ってる人が? (クリックで拡大します)
すわっ、自殺か!?こんなところで物騒なことせんといてちょ~、と慌てたら、作り物の人物像でした。人騒がせなモノ置くんじゃない!
まず、オマケご利益としてありがたいのは周辺施設が充実したことで、中華やら寿司バーやらのリーズナブルそうなレストランがいくつも新しく出来てたこと。
この辺は気の利いた食べるところ少ない外食不毛地帯だったのですが、テムズ河畔散策の途中で寄る素敵なスポットになるでしょう。
ROHのバルコニーからの眺めは以前から素晴らしいし、コンサートではなくゆったりと河べりで過ごすのも良い雰囲気。舗装がボロボロで雨が降ると水溜りになってとても歩けたもんじゃなかった歩道橋も整備されて、河の横断も便利に。噴水までお目見え。
さて、RFHの中はと言うと、
建物を取り壊して立て直したわけではないので、外観は基本的には築50数年のあまりぱっとしないかまぼこビルだし、完璧には工事が終わってなくて、あちこちあからさまに作業中というところもあるのはまあイギリスだから仕方ないとしましょう。
聴衆席は壁や椅子を全部新しくしたのでちょっとキレイになったという感じ。肝心の音響についての評価がどうなのか知らないのですが(演奏者が自分たちの音が聴こえなかったというのが問題だった)、聴く側にはいずれにしてもほとんど変化がない筈だそうです。
私はここではコーラス席に座ることが多いのですが(安い&近いという私好み故)、席自体が随分変わってました。
以前はたしか7列あったのですが4列に。席数を減らしたわけではなく、長方形だったのをコの字形にしたので、正面の席が減り、しかもコーラス席全体の高さを上げたのか、最前列でもピアノからの距離が遠くなっただけではなく、前はオケの演奏中でも一番後ろでヒマそうなパーカッションとかの人の肩をつついて「ねえ、サインして~」とか言おうと思えば可能なくらいでしたが(したことはないですよ)、これでは無理で、オケを後ろから見るというより上から眺めるという位置になってしまったのは残念。
でも、良いこともあって、以前はやけに幅の狭いベンチ席だったのが、スペースゆったりになって、背もたれもできました。
↑ 後と横がコーラス席。 私のコーラス席からの眺め。ピアノのコンサートには最適。
Joseph Haydn Piano Sonata in C minor, Hob.XVI/20
Ludwig Van Beethoven Piano Sonata in A flat, Op.110
INTERVAL
Franz Schubert 4 Impromptus, D.935 - No.1 in F minor; No.3 in B flat
Wolfgang Amadeus Mozart Piano Sonata in C minor, K.457
今でも人気抜群のブレンデルじいさんのコンサートはもちろん満席。今回はホール再開のご祝儀プログラムってとこでしょうか(悪く言えばごった煮)、お得意のハイドン、ベートーベン、シューベルト、モーツァルト。お得意と言うか、他に何か弾けるのでしょうか、この人は?、何度も聞いたけど、こればっかりだったような気がする。
いつも思うのは、彼は決して無理をせず、自分にできることを自分流に弾くだけなんです。好意的に言えば自分のスタイルを持ってるってことだけど、なんか軽~く弾き流すので、迫力は無し。その弾き方に合った曲のときは「ほーっ、さすがだ、余裕と貫禄だ」と思うときもあるけど、ま、はっきり言って、「かつての巨匠、今は普通のじいさん」です。
今回一番良かったのは軽いタッチのシューベルトの即興曲。ハイドンも悪くなかったけど、ベートーベンはパワー不足だし、最後のモーツァルトは手がもつれた部分も多く、やはりお疲れが出たようです。76歳だから無理ないけど、まあ2年前のリサイタルのときみたいに一時的記憶喪失にもならず、まずは無事に終わってやれやれというところ。
彼も唸ったけど、誰かさんとちがってちょっとだけだし、15メートルくらい離れているので全然気にならず、これもやれやれ。
その誰かさんがこないだ勇気を出してリストのソナタなんぞを若者に負けてたまるかと無理して頑張ってこめかみに青筋立ててたのに比べると、同じ爺さんでもこちらは安全な曲目でさらっと安全第一。どっちがいいんだか・・・
アンコールもシューベルトを一曲だけ。
「きみぃ、後ろから爺さん爺さんと言わないでくれたまえ。わしを見に来たんでもないくせに
さあ、それでは、じゃアンコール弾いてしんぜよう。」
「先生、すみません。でも一応お金払ってるんですけど・・・」
「たった9ポンドじゃろが。」
「はい、9ポンドでこの席は満足でございます。れ以上だったら参りませんが・・・」
でもこの爺さん先生、長身で姿勢が良いので歩く姿はかっこいいし、演奏中もぴしっと背中が伸びて、飄々と、時には目をつむって瞑想にふけりながら弾く姿はサマになるので、「良い人生送ってるなあ、彼」、とこちらもなんだかハッピーにさせてもらえるの。だからって訳じゃないんだけど、来年6月のリサイタルの切符までなぜかもう買ってある。
ロンドン在住のオーストリア人のブレンデル爺先生、ここまで来たら得意なドイツ・オーストリア系の音楽で80歳までは頑張ろうね、なんて言うと嫌味かしら?
そう言えば、客席に内田光子さんがいらしてたのですが、もしかしたら内田さんは、「老いぼれても名声にしがみ付いていつまでも自己満足のために人前で弾きたくないわ。私はピークを過ぎたら、日本で温泉にでも浸かりながら余生を過ごすわ」、
なんて思ったかも・・・