6月19日、ロイヤルオペラハウスにヤナチェックのチェコ語オペラKatya Kabanovaの初日に行ってきました。


  Composer Leoš Janácek
  Director Trevor Nunn
  Designs Maria Björnson
  Conductor Charles Mackerras


  Marfa Ignatevna Kabanova(鬼姑。裕福な商家の未亡人) Felicity Palmer
  Tichon Ivanyc Kabanov (鬼姑のマザコン息子) Chris Merritt
  Katerina(Katya) (不倫妻) Janice Watson
  Varvara (鬼姑の養女) Linda Tuvås

  Boris Grigorjevic (カーチャの間男) Kurt Streit
  Vána Kudrjáš (村の教師。鬼姑の養女の恋人) Toby Spence恋の矢
  Savël Prokofjevic Dikoj (ボリスの伯父) Oleg Bryjak


カメラ珍しく、アンフィシアター最前列だったので、正面から全てよく見えました(47ポンドもしたけどがま口財布しょぼん





本 あらすじ (突っ込み付き)

原作はオストロフスキーの戯曲「嵐」で、舞台は1860年代のロシア。

裕福な商家に嫁いできたカーチャは鬼姑に虐げられて辛い毎日を送っている。夫は義母の言いなり。(ここまではどこにでもあり過ぎる話) 

が、この退屈夫人は夫以外の男性に惹かれている。(ま、退屈しのぎに何かにときめきたいですもんね。日本の奥さんたちがキャーッ、ヨン様~というのと大して変わらないかも) 

家を牛耳っている姑の命令で夫が出張に行くときに一緒に連れてってとせがむが勿論拒否される。

彼女に同情する義妹が自分の密会脱出用に鬼義母から掠め取った裏門の鍵をカーチャに渡し、ボリスとの逢瀬もアレンジ。(親切心からなんだろうけど、フリンと軽く呼ばれる現代とはちがうんだから、これってまずいよねえ)

さて、ルンルン気分の熱い10日間が過ぎ、夫が帰宅。このまま隠してうまくやろうとするのが賢い奥さんなんだけど、カーチャの悲劇はそれができないことで、良心の呵責に耐えかねた彼女は、なんと自分から皆に告白してしまう。しかも相手の名前までばらして。(これは絶対ルール違反。例え現場を押さえられても白ばっくれるのが鉄則では?)

ボリスはそれを怒らなかったけど(独身だからね)、伯父さんにお仕置きとしてシベリアに送られてしまう。



まだ愛していると言う彼に「それなら私も一緒に連れてって」とせがむが「貴女は自由の身ではないから」と断られ(自由の身ではない人に手を出すのはいいのか?)、絶望した彼女は、冷たいヴォルガ河に身を投げる。

養女は恋人と新天地を求めてモスクワに駆落ち。(こちらの若い二人は回りに押し潰されずにうまくやりました。これがないと暗いばかりで辛過ぎるもんね)



しょぼんという、嫁姑問題や不倫で悩んでいる人にとってはすごく身につまされるお話よ。

そして、どちらにも縁のない私ですら、主人公の心のひだを細やかに叙情豊かに表現したヤナチェックのドラマチックな音楽につい同情してしまい、「ボリス、モスクワにカーチャを一緒に連れてってやれ~」、とか「カーチャ、自殺するんなら、その前に鬼ババアをぶっ殺したれ~」とか思って引き込まれてしまいました。




家 舞台

イギリスの有名なお芝居の演出家トレバー・ナンの舞台は1994年初演で、今回がおそらく3度目のリバイバル。ロシアの冬の雪と泥と暗い空は全て灰色で、大きならせんの坂道は古い家長制度の閉塞感をも表すような重く暗いリアリティと抽象がうまくミックスされたこの舞台、私は2000年に観ましたがよく覚えてました。衣装は時代そのままにリアルなのもこの場合は等身大のドラマ性をさらに盛り上げます。


音譜 パフォーマンス

指揮はヤナチェックの第一人者であるチャールズ・マッケラス。チェコ人ヤナチェックの音楽がイギリスで結構人気があるのは彼のおかげなのでしょう。50年以上も前にこのオペラをイギリスで始めて演じたときも指揮をしたマッケラスは「これは俺に任せておけ」とばかりに流れるように、でもメリハリはしっかり付けて素晴らしい指揮ぶりでした。




歌手陣も歌、芝居共に粒揃いで文句なし。もしカーチャがカリタ・マッティラだったら(いかにも彼女がやりそうな役だし、「イエヌーファ」は素晴らしかったですもん)、彼女だけ抜きん出てしまうところでしょうが、今回のアンサンブルは皆の実力が平均して穴がなく、おまけに皆さん容貌が役柄にぴったりなのがドラマ性の高いオペラを観る場合には大きな利点です。


カーチャ役のジャニス・ワトソン、数年前に観たアンドレ・プレビンの「欲望という名の電車」でルネ・フレミングの妹役でも素晴らしかったし、似たところのあるこの役もうってつけ。全身で役になりきる女優さんです。




テノール好きの私には嬉しいことに、主要男性3人が全てテノールで、しかも皆さん声が全く異なって三杯三色楽しめました。上手なテノールが3人も出るなんて、珍しいことですからね。

ボリス役のクルト・シュトライトは張りのある声と立派な声量でストレートに迫ってくるし、ご贔屓のトビー君は彼の持ち味である若々しさと清らかな伸びる声でうっとり魅力的ラブラブ

この二人は何度も聴いているのですが、クリス・メリットは今回初めて。2月のバスチーユの「ユダヤの女」でシコフとダブルキャストだった人で、もしシコフがあの日病欠したら(ほんとにしそうだった)、メリットをたっぷり聴けたのに(シコフを聴きにパリまで行ったのだからそれはそれで失望だけど)、それを逃したのでやっと聴けて満足。でもこれは出る場面が少ないので、いつか又たっぷり聴いてみたい渋い実力派テノールです。


こういう緊張ドラマなオペラは続けて2度観ると感動が薄れるし、やはり暗い題材で辛い気分にもなるので、今回は1度だけにしておきます。トビー君は年末年始に「チェネレントラ」(シンデレラ)の王子様でたっぷり楽しく観られるしね。

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