6月15日と26日の2回、ロイヤルオペラハウスにDon Giovanniを観にいきました。


ネトレプコが最初何回かと最後1回体調不良でキャンセルしたのですが、私が行った日は幸い両方出てくれて、長い間の楽しみが実現しました。去年「フィガロの結婚」で素晴らしかったシュロットのジョバンニも期待以上の素晴らしさで堪能。


15日は舞台から一番近い席で43ポンド、26日はupperslipで11ポンド。一回目のカーテンコールでシュロットがおどけてポーズ取ってくれたことは→こちら でご覧下さい。着物だったのでサービスしてくれたのでしょうか、良い記念になります。


カメラ まずは今回のカーテンコール。クリックで拡大します。


  

               下男や農民は裸足なんだ


     
あら、ドンナ・エルヴィラお嬢様もも裸足             2回目の安い席から

メモ観てから随分時間が経ってしまって今更なのですが、今回はこのプロダクションのこれまでのパフォーマンスと比較しながら、歌手比べをしてみましょう。緑色部分のキャラ分析は手抜きして以前の記事の繰り返しです。


椅子プロダクション

  Composer Wolfgang Amadeus Mozart
  Director Francesca Zambello
  Designs Maria Björnson


ロボット今回のキャスト

  Conductor   Ivor Bolton

  Don Giovanni: Erwin Schrott
  Leporello: Kyle Ketelsen
  Donna Anna: Anna Netrebko
  Don Ottavio: Michael Schade / Robert Murray
  Donna Elvira: Ana María Martínez
  Masetto: Matthew Rose
  Zerlina: Sarah Fox

  Commendatore: Reinhard Hagen


オバケ過去のキャスト

            2002年1月     2002年2月      2003年9月

Don Giovann Bryn Terfel Simon Keenlyside Gerald Finley
Leporello Alan Held Ildebrando D'Arcangelo Erwin Schrott
Donna Anna
Adrianne Pierzonka Christine Goerke Anna Netrebko
Don Ottavio Rainer Trust John Mark Ainsley Ian Bostridge
Donna Elvira Melanie Diener Ana Maria Martinez Nuccia Focile
Masetto Ashley Holland Darren Jeffery Darren Jeffery

Zerlina Rebecca Evans Natalie Christie Rosemary Joshua
Commendatore Robert Lloyd Andrea Silverstreilli Robert Lloyd



王冠1 ドン・ジョバンニ  (スペインの貴族)

2千人以上をモノにした稀代の色事師で女たらしの悪い奴と思われているのですが、「一人の女しか愛さなかったら、その他大勢女性に対して失礼だろ?」という論理には妙に説得力があるし、金持ちでも貧乏でも美人でもブスでもデブでも痩せでも黒髪でも金髪でも差別しないのは立派です(できれば夏はやせっぽちがよくて冬はふくよかなのがいいけどとちょっとだけ贅沢言いますが)。ここまでくれば博愛主義と言ってもいいくらいだし、彼に口説かれて一時的にせよ女として幸せを感じ自信を持たせてもらった女はたくさんいるわけです。

都合の悪いことは召使に濡れ衣を着せたりして姑息なところもあるのですが、女性に関しては信念に基づいて行動し、周りから不道徳と責められても、「改心しないと地獄に引きずっていくぞ」と行きがかり上殺してしまった(正当防衛と言えなくもない)騎士長の亡霊に脅されても、「俺は意気地なしじゃねえぜ。これが俺の生き様なんだ」と潔く地獄に堕ちて行きます。

でも地獄に行ってもきっと女性を幸せにするのが俺のミッションと切磋琢磨するのでしょう。或いは生まれ変わって信念を貫く肝のすわった男です。事実そういう男は世の中に後を発たないわけで、彼の生まれ変わりかもしれません。頑張れドン・ジョバンニ、フォーエヴァー!


ドン・ジョバンニは、大したアリアがあるわけでなし、一番大事なのはキャラクターなのだと思います。ひどい男だわと言いながら女性は3人ともジョヴァンニに惹かれているわけですから、彼に彼に魅力がないとオペラが盛り上がりません。

なので、結局は個人的好みによるところが大きいのですが、特にここで比較する4人のジョバンニ(ブリン、サイモン、フィンリー、シュロット)は皆歌唱力は立派な人ばかりなわけで、この順位は私がどのジョバンニにコロっとするかという点だけが基準という、なんのっこっちゃ比較です。
   汗(ヨダレ)


1アップ1位は迷わずラテンのいい加減さを絵に描いたようなシュロット

ノーブルさが全く感じられないところが私には新鮮。クルクルと悪戯坊主のような青春の真っ只中の若いジョバンニで、「とにかくやりたくて仕方がないだけ」というドンジョバの本質をあからさまに押し出してます。表情も振る舞いも自然そのものなので、これはただ地で行ってるどんぴしゃの役なのでしょう。そうでなくてこれが芝居だとすれば、シュロットはもっと凄いぞ。とにかくこのハンサムでチャーミングなジョバンニに私はメロメロですドキドキドキドキ


フィガロの時よりも頬がこける程痩せたのは、きっと裸になるためでしょう。


22位は僅差でサイモン。シュロットとは対称的な従来の貴族型。役者並みの演技力のサイモンは、更にぞっとするような冷たさを加えて、エレガントな冷血漢ぶりが印象的。これもぐっと来ますドキドキ


脱ぎたがりのサイモン、もしかしたら「最後は脱いだ方がいいよ」と提案したのかも。


(ホットなシュロットとクールなサイモンの二人の後は大きなギャップがあり、うんと離れて次の二人となります)


3何をやらせても平均点以上の手堅いフィンリーは、彼なりにベストを尽くした立派なジョバンニで文句のつけようはありません。が、如何せんあまりにまじめなでお堅いジョバンニで魅力なし。フィンリーのキャラに合わないです。


4ダウンキャラに合わないと言えば、ブリン程合わない人はいないかも。点数が低いのは彼がハンサムからは程遠いクマゴローだからでは決してありません。たしかこれが彼にとって初めてのジョバンニで、下男からご主人に格上げと言われたのですが、レポレロを長年やリ過ぎたせいか、身のこなしがまるで下男。これは彼の努力不足であり、失格。

これ一回で懲りたのか、それとも他所でもジョバンニをやってるのかは知りませんが、やるならうんと演技の稽古しないとね。それよりも、又ここでやるのならダイエットして今度は皆のように脱げるカラダにならないとね(こりゃ無理だから、周りが止めるだろうなぁ)。


サイモンのドンジョバにブリンのレポレロってのが組み合わせとして理想的で、この配役でCDもあります。
     

シュロット「頑張ってシェイプアップしたんだよ、僕」   サイモン「わーい、わーい!熱いけど」          


                      
フィンリー「わたくしも一応脱ぐことに致しました」     ブリン「俺は脱ぐって言ってるのによお」  


しかし、あれですね、バリトン業界ではこう言ってるかも。

「コベントガーデンのドンジョバって裸にならなくちゃならないから嫌よねえ。」、「本当よね。必然性があるのかしらねえ?」



ビール レポレロ  (ドン・ジョバンニの下男)

フィガロと並んでオペラ界では一番有名な召使。ここではご主人の女性攻略の大切な手助け役で、モノにした女の記録もする几帳面なところもあり。こんなことやるのはおいら嫌なんだとぶつくさ言ってるけど、お金であっさり丸め込まれてしまうし、それにおこぼれも頂戴したり海外遠征にもお供して変化に富んだ興味深い仕事に就いているわけで、ドン・ジョバンニ亡き後もし御清潔で御誠実なご主人様に仕えたら退屈して、きっと前の雇い主と同じような人のところに転職するのではないでしょうか?


レポレロも歌唱力より芝居っ気の方が大事かも。おどけ役なだけでなく下男の悲哀さも出さなきゃならないので、ドンジョバより演技力が要るのではなかろうか。


でも、びっくりしたわ~、前回の名前見て。なんとシュロットがレポレロだったのね。でも、なんかいやに若いにいちゃんだなと思ったことくらいしか覚えてないもんね。残念。でも、今のシュロットだったらレポレロでもきっと上手くやるにちがいないから、もう一度観たいものです。


今回のケテルセンは、何度も聞いてるけど、充分上手いのは認めるものの、なにか私には物足りなくて魅力がないです。

この中ではやっぱり知名度ナンバーワンのダルカンジェロがベストかなあ。でも、ROHの悲しさで、ドンジョバに良い人出したらレポレロまで有名人を連れてくる予算がないみたい。



宝石赤 ドンナ・エルヴィラ  (ドン・ジョバンニが棄てた女)

ひどい男に棄てられて悲しい思いをしている可哀相な女がいるから慰めてやろうという優しい心根で近づいたら、なんと怒ってる対象は自分で、とんだヤブヘビ。あんたひどいじゃないの、と詰め寄るだけじゃなくて、他の人に「こいつは悪者だから」と言いふらして彼の邪魔をしまくる恨み女。でもまだドン・ジョバンニを誰よりも愛していて、それはいいけど、なんとか愛の力で自堕落生活から救ってあげるなんて無理なことを本気で思ってる思い込み女。ドン・ジョバンニが一番避けなきゃいけない一途な迷惑女ですが、一番わかりやすくて純粋。


男二人が大したアリアが無くてキャラ主体なのに比べると、エルヴィラ嬢とアンナ嬢はかなりの歌唱力が要求されます。エルヴィラは怒っている場面が多いので、力強い声のソプラノが向いてます。


だから、椿姫では最低だったマルチネズもこの役には結構合っていて、今回もところどころあの不快な声が出たものの概ね合格点。


フォッチーレの声はきつさが足りなくてこの役には合ってないような気がします。


メラニー・ディーナーの名前は後にも先にもこのときしか聞いたことがないのですが、印象はとても良くて、この中では彼女がベスト。 


宝石紫 ドンナ・アンナ  (ドン・ジョバンニに父親を殺されて復讐を誓う女)

この女、私は嫌いです。ドン・ジョバンニに惹かれているのに、婚約者も安全弁としてキープして、慰めてあげたいから早く結婚しようと親切な申し出にも、「私がこんなに苦しんでるのによくそんなこと言えるわね! それよりも貴方も一緒に復讐すると誓うのよ」、なんて命令して結婚を引き伸ばす二股女。ドン・ジョバンニが部屋に侵入してきたなんて言ってるけど、当時の上流階級のお嬢様の部屋に簡単に入れるはずないから、人払いをして自分で招き入れたんでは?彼は言い訳しないけど。


エルヴィラよりも高い声が必要でコロラチューラも必要な難しい役だと思います。


ネトレプコは2回出ていて、先回はすでに有名だったもののその割には大したことないなと思ったのですが、今回はスターのオーラが出ていて、悪く言えば一人だけいやに大袈裟な演技で浮いてたとも言えますが、抜きん出ている歌唱力とマッチして、私が2回観たうちの1回目は病み上がりのせいか声が3回ひっくり返ったりもしましたが、ダークだけどよく通る声がとても魅力的で華がありました。


ピアチェンカは全然記憶無し。声も体も(鼻も)も大きなゴーケなので、大味という印象ですが、迫力はありましたわ。


カエル ドン・オッタヴィオ  (ドンナ・アンナの婚約者)

私が相談投書おばさんで、彼から「婚約者が復讐第一、結婚はその後って言ってるんですけど、僕どうしたらいいんでしょう?」と相談を受けたら、「そんな勝手なのとはすぐ別れて、他の女探しなさい。でないと一生尻に敷かれるわよ」と即答えます。


二股女のドンナ・アンナにコケにされる丸っきりのアホですが、美しいアリアが2曲ある得な役。素直な美声だけあればいいのでそんなに難しくはなさそう。

今回のシャーデの張りのある声がこの役にはベスト。彼が病欠したときの代役のマレーは根本的に実力不足。


ENOでよく主役をやってた長身坊主頭のエインズリーの軽いいい爽やかさはなかなかよかったけど、ボストリッは不気味だった。ボストリッジは大のご贔屓なのではありますが、これは駄目。声が向いてないわけではなく、真面目くさって力の入りすぎたのが悪かった。こんな役に哲学的な意味なんか表現しようとしない方がいいよ。


ブーケ1 ツェルリーナ  (結婚式を控えた村娘でドン・ジョバンニの今日の獲物)

この娘はしたたかですよ~。結婚式の日に「君程の女性があんな田舎者と結婚して村に収まるのは勿体ないよ。僕のところにおいで」とドン・ジョバンニに口説かれると、「そうやって道を踏み外す女はいるのよね」と冷静に判断しながらも、「でもちょっと遊んじゃおうかな。それにやっぱり私って野良仕事するにはゴージャス過ぎるわよね。マゼットが嫉妬して怒ってるけど、単純な彼をなだめることなんてチョロイからとりあえず甘えておこうっと」。一応、結婚すると約束したんだから守らなくちゃいけないわよね、と殊勝なことも思ってるけど、これで一旦もっと上の世界を夢見てしまったツェルリーナは、この先貞淑な村の奥さんでいられる筈はなくて、椿姫のような道を辿ってお金持ち社会でのし上っていくにちがいありません。


女性3人の中では一番軽くて難易度も低い役なのですが、でも、したたかさは歌には出さずにあくまで気の良い農民の花嫁さんでいかないとね。


今回のフォックスは甘さ不足だし、ネトレプコとマルチネズに比べると実力が下なのは明らか。


小柄で可憐で素朴なエヴァンスが鈴のような声で最高でした。


ほっそり美人のジョシュアは上手だけどすでにトウが立ってて若い娘のピチピチさはを求めるのは最初から無理だっちゅうの。


モグラ マゼット  (ツェルリーナの婚約者の村の若者)

なぜツェルリーナのような美人で頭も切れる女性がこんなぱっとしない農民にいちゃんと結婚しようと思ったのわかりません。結婚式の日に花嫁が羽振りの良い男といちゃつくは、レポレロに変装したドン・ジョバンニに暴力を振るわれてと怪我するは、踏んだり蹴ったりの可哀相な青年です。私が村の仲人おばさんだったら、この善良なおにいちゃんにはオツムの程度が同じような素朴なおねえちゃんを紹介します。長い結婚生活には釣り合いってものが大切でしょ?


脇役なので若い駆け出しバリトンしか出ません。だからお手軽にハウスバリトンを出すんだけど、ジェフリーローズも飽きたから誰か他の人にして欲しいわあ。


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