砂時計10月17日から24日に見たワグナーのリングサイクル、見終わってからすでに3週間近く経つのに、まだ感想が書けてなくて、宿題がやり終えてない子供のような気持ちです。


やっと時間ができたので、今更誰も興味ないでしょうが、自分の記録だけにでもパフォーマンスについて書いておくことにします。


折角4つを連続で見たわけですから、作品ごとの横割りではなく、登場人物ごとの縦割りにします。


3人のちがうブリュンヒルデ だけはすでに終わっているので、他の人を一気に手短かに、バラバラにやった時との比較をしながら書いておきましょう。(緑の箇所はキャラクター紹介



クマヴォータン (ラインの黄金、ワルキューレ、ジークフリートに登場)

神々の長、全能の神。世界を支配している筈なのに、もっとパワーが欲しい、もっと良いお城に住みたいと願う強欲ジジイ。女たらしで、私生児がわんさか。純血を守るために自分の双子の息子と娘を夫婦にしてしまったり、

ヴァルハラ城建築費用を踏み倒そうとしたり、姑息な手段で権力の象徴である指輪を横取りしたり、とおよそ尊敬される神様像からは遠い欠点だらけのオー・マイ・ゴッド!


元々は3サイクルのうち、第二サイクルだけがJohn Tomlinsonだったので、私は迷わずこのサイクルを選びました。 個別公演のときブリンはまだ「ラインの黄金」と「ワルキューレ」だけしか準備ができてなくて、「ジークフリート」はトムリンソンで、それはもちろん素晴らしかったので、今回ひよっこのブリン・ターフェルよりは、長い間ヴォータンとして第一人者だったトムリンソンが老いて駄目になる前に聴きたかったわけです。


年齢的に若すぎるという以外にもブリンの声はヴォータンには軽くて威厳がないのに比べると、トムリンソンの深くて渋くて苦目の声はぴったりだし、白髪の容貌もパーフェクト。更にトムリンソンはずるがしこい爺さんを演じたら演技も抜群に上手に、この役は得意中の得意。素晴らしいに決まっています。やっぱりヴォータンにはこういう重みと権威がなくっちゃね。


しかし、余裕綽綽とは言え、あの長丁場だ、体力的に大変に決まってます。家族の都合という言い訳でキャンセルしちゃったブリンの代わりに公開リハーサルも入れたら4サイクル全部を歌うことになったトムリンソン、これが3回目だったけど、ずっとパワー全開というわけではなくて、時折「あー、やっぱり疲れてるな」と感じるところもありました。でも又すぐ回復して驚くべき威厳のある声量をたっぷり聴かせてくれたのはさすが。多分これが私がリングをトムリンソンを聴くのは最後でしょうが、気が済みました。


2-1   3-4

ブタネコフリッカ (ラインの黄金、ワルキューレ)

ヴォータンの正妻。子供はなく、彼女を得るためにヴォータンは片目を失ったほどの大恋愛だったのに、今では冷めてて、ヴォータンがあちこちで浮気して子供を作るのも我慢しているという、世の中にあまりにもよくあるパターン。しかし、結婚の女神という立場上、ヴォータンの双子の息子と娘の近親相姦は大目に見るわけでいかず、この時ばかりはヴォータンに食って掛かるという「正妻は強し」を絵に描いたような、見本にすべき奥方様。


イギリス人のRosalind Plowrightは、現エリザベス女王のおばあちゃんであるメアリー王妃に似た威厳のある雰囲気が正妻にぴったり。これならヴォータンも頭が上がらないのも当然という貫禄と声量で前回同様のはまり役。ブリン・ヴォータンだと夫婦というより母親が息子を叱っているようにしか見えないけど、トムリンソンなら年恰好ともパーフェクトな中年夫婦で、今回は彼女のよさがさらに顕著に。60歳は越してるだろうに立派なものです。


とかげローゲ (ラインの黄金)

火の神様で人間とのハーフ。名古屋弁でいうと「こっすい」性格の策士で、ヴォータンに重宝がられている。


前回も今回もPhilip Langridge。イギリスを代表するテノールの彼は中年になっても実力も魅力もあり、私は好きですが、彼の「ご清潔でご誠実で」な雰囲気はこの役にはあまり合わないので、大袈裟な演技で本人は楽しみながら演じてて光ってましたが(禿げカツラだからじゃなくて)、ちがう人のローゲ像も見たいです。


わんわんジークムント (ワルキューレ)

ヴォータンの私生児。ヴォータンの指輪奪回作戦は、英雄の孫を世に出すという2世代掛かる気の長い計画で、純血ヒーロー誕生のためにまず私生児双子を産ませ、その兄妹に子供を産ませようというもの。その種馬がこのジークムントで、「貴女は私の妻であり、妹でもあり~」という変態アリアを罪悪感なしに高らかに歌うテノールは、出番は短いが美味しい役どころ。


前回と同様、プラシード・ドミンゴが「俺はなんでもできるんだ、ワグナーだって歌うんだぞ」とご登場。ドミンゴ先生、コベントガーデンのリングは先生なしでも切符は飛ぶように売れますので、無理して出て下さらなくてもいいんですよ。シラノ・ド・ベルジュラック のように彼がやると言い出さなかったら実現すらしなかったマイナーなオペラ発掘にでも力を注いで頂いて、ジークムントは若い人に譲って下さいよお。


にゃージークリンデ (ワルキューレ)

ジークムントの妻&妹でジークフリートの母。魔法の剣を守るために嫌な男に嫁がされ、やっと愛する男(双子の兄だけど)が現れたと思ったら、彼は殺されて、自分も死にたかったけど、妊娠しているのでブリュンヒルデに生き延びさせられ、でも子供を産めば用は達したとばかりに産後すぐに死んでしまう可哀相な子作りマシーン。


Eva-Maria Westbroekは色気のある優しい声でとても魅力的なジークリンデでした。前回のWマイヤーよりも私は好き。一年前に観た「ムツェンスク郡のマクベス夫人 」の体当たり演技も素晴らしかったけど、今回も美しくてとても上手。他の役でも是非聞いてみたいですが、こんな不幸な役ばかりでなく、華麗な美人で美声ですもの、華やかはなイタリアものでも映えるにちがいないです。

しっぽフリフリジークフリート (ジークフリート、神々の黄昏)

ヴォータンの孫で、ジークムントとジークリンデの息子。私、英雄のコンセプトが崩れましたわ。腕っ節は強いけどオツムが弱いんですもの、このヒーロー。だから行動の全てが他人の思うままで、皆にいいように振り回されます。自分の意志でしたことは何もなく、大蛇を退治して指輪を奪回したのも、ブリュンヒルデに会ってメロメロなったのも、悪賢いハーゲンにまんまと騙されて他の女性と結婚したのも、そして裏切りの復讐であっけなく殺されてしまうのも、全てが周囲の人の欲望の結果という可哀相なヒーロー。仕方ないか、脳みそ空っぽだもん。


残念なことにJohn Treleavenはブリュンヒルデ役とちがって今回病気にならなかったので、今回もずっと彼でした。でも前回よりはかなりましだったのが救いです。個別公演のときはただ吼えてるだけでしたが、今回は一応メロディになってましたから。でもとても固い声でずっと一本調子なのはなんとかならないものか?力を抜いたりメリハリ付けるのはそ難しいとも思えないんですけどね。こんなんじゃなくて、他の素晴らしいテノールでジークフリートを聴いてみたいけど、いつもの世もワグナー・テノールは人材不足だから、ないものねだりですね・・・


3-1   3-7

以上、主要人物はカバーしたので、マイナー役はパフォーマンスのみを書いておくと、

アルベリヒのPeter Sidhomは今回見直しました。主要脇役バリトンでよく出てくる人ですが、いつも手堅いものの華がなくて印象が薄かったのですが、今回はトムリンソンと互角と言ってもいいくらいの出来でした。残念だったのは、トムリンソンと声が似過ぎてて、どちらが歌っているのか見えないときは混乱したこと。ま、トムリンソンと一緒にされるってこと自体凄いことですが。

ジークリンデの夫のStephen Millingは体もでっかくて悪人向けの面構えだけではなくて声もものすごく迫力があるので、悪人役として重宝されるでしょう。

印象に残る歌唱力を示したのはSidhomとMillingだけで、あとは及第点か「こんな人しかいなかったの?」という人たち。


神々の黄昏でワルキューレの妹ワルトラウテを歌った藤村美穂子さんは、前回は声がよく出て素晴らしかったのに、今回は本領発揮できなかったのが残念。


一番の失望は、「神々の黄昏」のハーゲンのJames Moellenhoffトムリンソンがやる筈だったこの役をこんな下手くそな人に代わりに歌わせるなんてひどい。私は前回トムリンソンで観ているのでまあいいのですが、比べるのも失礼なほどの力の差。「神々の黄昏」が一番で出来が悪かったのはこいつのせいだむかっ


家舞台セットや衣装についてはオペラ記事一覧 にある前回の記事をご覧下さい、なのですが、いくつか写真を貼っておきますので、大体のイメージはおわかりでしょう。


カメラ私が撮ったカーテンコール写真は→こちら にまとめてあります。


   4-6

4-5   4-2

3-3   3-2
2-6   2-5

2-4   2-3
 


目今回生まれて初めてリングサイクルを観ることができて良い経験でしたが、とりあえず満足したので、もちろん深いところまで理解できたとは言い難いのですが、少なくとも5年間は観なくてもいいという気分です。観たくてもロンドンでは10年くらいは機会はないでしょうけど。

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