Daniel Barenboimベートーベンの全ソナタ32曲を3週間足らずに8回のリサイタルで弾くというシリーズがRoyal Festival Hallでありました。

これはロンドンのクラシック音楽界のみならず、滅多にない大イベントでしょう。

バレンボイム先生は1960年にテルアビブで初めて全曲生制覇を行い、2年前のベルリンでのシリーズは録画もされたそうです。全曲録音も2回やったそうで、バレンボイム先生にとってはライフワークの一環なのでしょう。ピアニストとしても指揮者としても第一線に立つ先生はベトベンのピアノコンチェルト5つも全部弾いてるし、もちろん交響曲9曲も指揮しています。総合的には現クラシック音楽界の頂点に立つ巨匠であります。


まず、各コンサートのプログラムはこちらですが、1793年から1823年に作曲された順番ではなく、一回づつのコンサートにバランス良く初期中期後期の曲が配置されていて、全部行かなくてもとりあえずまんべんなく聴けるようになっています。

でも、全部行った人もたくさんいるにちがいありません。私が行ったのは4回のみですが、同じ人を何度も見かけました。


 青字が私が行ったコンサートです。ハンマークラヴィア、悲愴、熱情、月光という有名なソナタがある日を選びました)==========================================================================================

128 January 2008

No.1 in F minor, Op.,2 / No.3 in E flat, Op.31 / No. 29 in B flat, Op.106 (Hammerklavier)


2 3 February

No.2 in A, Op.2 / No.17 in D minor, Op..31 (Tempest) / No. 10 in G, Op.14 /No.26 in E flat, Op..81a (Les Adieux)



3 4 February 2008

No.8 in C minor, Op.13 (Pathetique) / NO.12 in A flat, Op.26 / NO.25 in G, Op.79 /No.28 in A, Op.101


4 6 February

NO.5 in C minor, Op.10 / NO.11 in B flat, Op.22 / NO.19 in G minor, Op.49 / No.23 in F minor, Op.57 (Appassionata)


5 9 February

No.13 in E flat, Op.27 / No.7 in D, Op.10 / No.27 in E minor, Op.90 / No.21 in C, Op.53 (Waldstein)


6 11 February

No.15 in D, Op.28 (Pastoral) / NO.3 in C, Op.2 / NO.24 in F sharp, Op.78 / NO.30 in E, Op.109


8 15 February

No16 in G, Op..31 / No.14 in C sharp minor Op.27 (Moonlight) / NO.6 in F, Op.10 / No.31 in A flat, Op.110


8 17 February

NO.9 in E, Op.14 / No.4 in E flat, Op.7 / No.22 in F, Op.54 / NO.32 in C minor, Op.111

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切符を買ったのは随分前で、いつだったか覚えてないのですが、一年以上先に買うのも当たり前の私が、「え~っ、2008年!どえらい先だがね~。まんだ生きとるかしゃん?(バレンボイム先生が、です)」と呆れた記憶はあります。

コーラス席の最前列と2列目のど真ん中という良い席は、発売最初の日に買ったにちがいないですが、真横から見下ろすのは顔も手もしっかり見えて最高です。


そんな席で、先生の演奏だけではなく、観客の反応も見ながら(双眼鏡はそのためかも)、しかも大したお金も使わずに(13ポンドづつ)、この大イベントを鑑賞できたのはとてもラッキーなことで、もうそれだけで感激感激なので、冷静に演奏を批判することなど今回はできません。


先生は何度か間違えたし、毎回、最初の曲はまだウォームアップが充分ではなくて指の動きが鈍かったり、後半は明らかに疲れてしんどそうでしたが(汗ふきながら弾いてた)、そんなのは些細なことで、32曲を全部一気に弾こうとする65歳の勇気と意気込みには敬服です。


お母さんのボルシチを食べる以外はピアノを弾いているだけの、Kで始まるどこかの誰かさんとはちがい、バレンボイム先生は家庭もあるでしょうし、なによりも第一指揮者としても超一流なだけでなく、この頃はイスラエル人とアラブ人の混合オケを結成して世界平和にも貢献するという超多忙の中で、よくぞこの偉業を成し遂げてくださいました。

先生の生演奏について私には複雑な思いがあり、2001年に初めてリサイタルで聴いたときは技術面でも音楽性にもいたく感激したのですが、その後数回は望の連続でした(だから今回も半分しか買わなかったのです)。


ちゃんと練習すれば上手に決まってるのに、多忙のせいなのは仕方ないとは言え、音符を必死で見ながらだったり、そうでなくても明らかな手抜きで、それでも充分上手なのですが、その時の不満記事はこちらです(2005年5月2006年1月 )。


でも、今回は改めてピアノに真剣に向かい合って下さったことはひしひしと伝わってきました。若い頃に何度も弾いた曲とはいえ、32曲も暗譜で次から次へと弾くだけでも至難の業でしょう。


全曲が傑作というわけではなく中にはつまらない曲もあるし、先生の演奏も曲によってこなれているものと四苦八苦するものがあり、全部が名演奏だったとは言えませんが、回を重ねるごとにシリーズ自体の重要さが増したのか、観客の反応も徐々に加熱。

15日はリターン切符を待つ人の長い列を見たし、会場の計らいでホールに大きな画面と椅子が備えてあり、中に入れない人も充分楽しめたはずです。


カメラ 4回分の写真をまとめて並べておきます。


1 1

 1月28日

この日は、終了後に、先生の功績を讃えて、Royal Philharmonic Societyから金メダルの授与がありました。この金メダルは1870年にベートーベン生誕100年を祝して始まったもので、先生が93人目の受賞者だそうです。


客席に内田光子さんもいらっしゃいました。

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2 2
2   2

 2月4日

私が初めて新しいカメラを使った日です。先生だけじゃなくて、帰り道の夜景もばっちりね。

また、同じ席に内田光子さんが座ってらしたです。

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3 3   3 2

3 1   

 2月6日

前の二回は2列目でしたが、この日は最前列。前の手すりにカメラを固定して、さらに良い写真が撮れました。

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 2月15日                             椅子 即席ロビー席

この日も最前列。

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ところで、しょっちゅう汗拭いてたとや言え、65歳にしては先生は驚くべき体力と集中力なのですが、でもやっぱり技術的には全盛期を過ぎているのは否定できないわけで、


先生には申し訳ないのですが、ああ、(さっきも出てきた)うんと若いで始まるどこかの誰かさんが弾いてくれたらどんなに素晴らしいことか、と思わざると得ませんでした。


「キーシン君、わしゃもう年じゃけん、これは二度とできゃあせん。君にバトンタッチするから、皆の興味があるうちになるべく早く全ソナタのリサイタルをロンドンでやってくれんかのぉ」、って先生が言ってくれたらどんなにありがたいことか。


さらに、


「キーシン君、君は一つの曲を極めるために長い間同じ曲で世界中を回っとるようだが、若いうちはたくさんの曲にチャレンジするのも大事なことじゃよ」って、Kの字を叱って下さい。


そんでもって、


「一つの所に腰を落ち着けてコンサートをするのも一考じゃから、君は住んでるロンドンで集中的にやるがいい」、とアドバイスして下さいませんでしょうか?


Kがやってくれるのなら、私は絶対に全部行きます。1ケ月に2サイクルやってくれたら、それも全部行きます。居眠りもしません。



などどいう戯言は置いといて、


バレンボイム先生、お疲れ様でした&ロンドンでやって下さってありがとうございましたクラッカー


類稀なセンスで一生を音楽に捧げた先生の演奏をまじかに見られたのは光栄の至りで、先生のかなり薄くなったオツムとちょっと突き出した下唇の横顔と華麗に動く小さめの手を長時間じっくり眺めさせて頂いたことは忘れないでしょう。


渾身の力を振り絞った2月6日の「熱情」と、2月15日の右手と左手が別々に動く複雑な23番が圧巻で、一番印象に残っています。 


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