3月6日、Cadogan Hallの葉加瀬太郎さんのリサイタルに行ってきました。


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Taro Hakase

The Classical Night

Maciej Janas pianist

Handel: Sonata No.4 in D Major Op.1 No.13
Beethoven: Sonata No.5 in F Major Op. 24 ‘Spring Sonata’
Brahms: Sonata No.3 in D minor Op.108


一応「世界的に有名な」演奏家を聴きに行くことにしている私にとっては番外的なこのコサート、いつものように自ら発売直後にかぶりつき席を必死で取ったわけではなく、なんとなくいきがかりで行くことになったもので、残っていた2階の一番安い席(15ポンド)にしました。


日本の事情に疎い私は葉加瀬太郎さんの名前も演奏も聞いたこともなかったし、奥様が女優さんと言われてもチンプンカンプン。


クラシック音楽家というよりはなにかのテーマ曲で有名らしいハカセさんが原点に立ち戻って本格的なソナタを弾いてくれる勇気は感心だし、ま、何を期待していいのか全くわからない白紙状態で聴くのも興味深いし、来ていた多くの人が「わ~、本物のハカセタローだ~」とそれだけで感激してたらしいのとはちがって、冷静にシビアにお手並み拝聴させて頂きました。



    

まず最初のヘンデルは、ハカセさんは緊張していたのか、ギクシャクして音もきれいでなく、最初の数秒で「駄目だ、こりゃ。世界の一流どころと肩を並べるには程遠いぞ」と思い、これを一晩中聴くのはつらいことだわと暗澹たる気持ちに。


救いは、伴奏のピアニストがとても音も美しくて上手だったことで、もうヴァイオリンは無視してピアノを聴いてよう、と思ったほどでした。


徐々にウォームアップしてきたのか、間もなくそれほど下手とは思わなくなりましたが、あまり面白みのないこの曲を演奏で魅力的に聴かせるというところまではいかず。


音がくぐもって聞こえたのは、彼がほとんど向こう向きだったせいもあるでしょうが、舞台の真横の私が後姿ばかり見なくちゃならない羽目だったのは、ハカセさんは譜面台を置いていたからで、正面向いたら(正面)のお客様に失礼と思ったのでしょう。横から聞けると思った私は怒ったけどむかっ


    しかし、音符見ながらヴァイオリン弾いた人を見るのは初めてですねぇ・・・汗




クラシックのコンサートで珍しいことはまだあって、曲の合間に何度も、ハカセさんマイクでスピーチしたのです。

驚いたことに(?)英語で。西洋人も少しいたのでそれは当然でしょうけど、正直意外でした。


いえ、クラシックのコンサートでスピーチなんかするなと言っているわけではありません。

それどころか、ハカセさんの真似をして他の演奏家もなにか喋ってくれたらいいのにな、と思ったくらいです。特にハカセさんは不慣れな英語を敢えて原稿まで用意して下さって、(譜面台に汚い字で大きく書かれたスピーチの原稿がしっかり置いてありましたわ)、そのサービス精神はありがとうございます、です。



2曲目のブラームスは「10歳のときにアイザック・スターンで聴いて感動した曲です」ということで、いつか弾きたかった曲をこの機会に実現してしまおうとっことでしょうが、ヘンデルよりはこなれてていたものの、ちょっとまだ彼には荷が重い曲ではなかったでしょうか、何度か集中力を失って不味い音が出てしまいました。


あともう一つだ、と緊張感がほぐれたのか、休憩後の有名なベートーベンは軽やかで余裕すら感じさせてくれ、「うん、なかなか良いんじゃないの」と初めて思えました。



ニコニコ彼の本領が発揮されたのはやはりアンコールでしょう。


全て暗譜で、クライスラー編曲のモーツァルトのロンド、マスネのタイスの瞑想曲、ハカセさん作曲「流浪のナントカ」、クライスラーのプレリュードとアレグロ、モンティのiチャールダッシュ、ハカセさん作曲のエンジェル・イン・ザ・ハウス、の6曲を弾いてくれました。プレリュードとアレグロの途中で弦が切れてしまったので、張りなおしてまた最初から弾いてくれたのですが、すっかりリラックスして指もよく動き、弾くのが楽しくて仕方ないという喜びが伝わってきました。



スポンサー日系3社に感謝したり、舞台袖にいたらしい奥さんに「I love you」と言ったりとお喋りもしながらだったので、アンコールだけで小一時間。


こないだのランランのピアノリサイタル で中国人が演奏中にまでフラッシュで写真撮ってた人が多かったのに比べたら、日本人のお客さんはとても礼儀正しくて、同朋として嬉しかったです。カーテンコールでも写真を撮る人がいなかったので、私もいつものようにはこっそりとバシャバシャできませんでした。



ですか、さすがサービス満点のハカセさん、終了後のサイン会ではまずポーズを取ってくれました。


カメラ私はハカセさんは撮りそこねたけど、「ほら、あの人が奥さんよ!」と教えてもらって、タイミングよく東大卒女優を一枚ものにしました。




飛行機

ロンドンに居を構えてここで一旗挙げようという意欲に溢れたハカセさん、うまく売り込めばこちらの有名オケとの共演も夢ではなく、充分実力はあると思うのですが、例えばSir Colin Davisが、


「ハカセ君、今度LSOと一緒にチャイコでも弾いてくれんかね?」と言ってくれたとすると、


「は、はい、サー、それはもう喜んで! ・・・でも、あのう、音符見ながらでもいいでしょうか?」


「えっ・・・・・ ・・・・・・むかっ  ・・・・・」


なんてことにならないようにね。


音符は置いてあるだけで実際には見てないのでしょうが、そういう頭が真っ白になったときの安全弁を取り外すのが一流のプロには必要な勇気でしょう。




足あとしかし、なんですね、



ロンドン/ヨーロッパで頑張ろうとしているらしい彼は、きっと、コンサートに頻繁に通う耳の肥えた人たちに聞いてもらいたいと願っているのでしょうが、その目的の前に大きく立ちはだかる問題があり、それは他ならぬ日本での人気ではないかと。



今回のコンサートもそうですが、普段はコンサートに行かない在ロンドンの日本人が大挙して押しかけるためにそれだけで切符がすぐ売り切れてしまい、これではイギリスのクラシックファンにまで切符が行き渡りません。今回も9割方が日本人でした。


普段コンサートに行かない人たちを会場に引っ張ってくるのは、これはこれでとても良いことだし、特にこの日は10歳以下の子供がたくさん来てて(これはとても珍しいこと)、皆ちゃんとおとなしくしていたし、こういう世界があるのを体験するのは子供たちにとってもクラシック音楽界にとってもありがたいことなのですが、なんだかハカセさんが可哀相。


スピーチで、「こんなにたくさんのヨーロッパ人が来てくださって嬉しいです」、と聞いたときには、「えっ、これだけしかいないのに?」とびっくりしました。 ってことはもっと日本人が多いだろうと思ったんですよね、きっと。



ひらめき電球偽名でコンサートに出るわけにはいかないでしょうから、どうしたらいいのでしょうね?、と考えるに、



それは案外簡単なことで、ロンドンでいくつか発行されている無料の刊行物に一切情報を出さないことにして、チラシも作らなければいいんですよ。コンサートホールの情報だけなら、コンサートに縁のない日本人はそんなものはまず目にしないから。私も、彼がウィグモア・ホールに出るって知っても誰にも言わないようにします。


イギリスでは無名のハカセさん、それで切符が売れなかったら、最後の手段として直前に日本人向けに情報を流すという安全弁を使えばいいんですもんね。



世界の壁は厚いけど、セリーヌ・ディオンと世界中を回った中でロンドンが気に入ったと嬉しいことを仰って下さるハカセさん、頑張ってくださいね~クラッカー



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