5月2日、ロイヤルオペラハウスのSimon Boccanegraの初日に行きました。

ヴェルディの渋いオペラで、いくつかバージョンがあるらしいのですが、これは1881年版。




   Composer  Giuseppe Verdi
   Director  Ian Judge
   Set Designs John Gunter

   Costume Designs Deirdre Clancy


   Conductor John Eliot Gardiner
 

   Simon Boccanegra Lucio Gallo
   Amelia Grimaldi Anja Harteros
   Gabriele Adorno Marcus Haddock
   Paolo Marco Vratogna
   Fiesco Ferruccio Furlanetto
(Orlin Anastassov)の代役)
   Pietro Krzysztof Szumanski



本ストーリーとキャラクター男の子


一言で言うと、


13世紀のジェノア総督シモン・ボッカネグラ(平民出身)は20年以上も行方不明になっていた娘アメリア(貴族の娘との隠し子)と再会して喜ぶのもつかの間、彼に恨みを持つ部下に毒殺され、死に際に娘の恋人に総督の座を譲る。


という「あれ~、トトさんかえ~?」的人情話とも言えるのですが、


原作の小説には政治的な背景や親の恨みなど説明してあるのでしょうが、表面的になぞることしかできないオペラでこういう複雑なお話を表現するのは難しく、なんだかよくわからない不可解な行動も多いです。


例えば、


一番わからない人物が娘アメリアの祖父で、この爺さん、いつのまにか違う人物になりすましてアメリアの養父(ただの世話係かも)になってます。貴族なのにそんなことができるわけ?

それに、シモンがアメリアと話をして10分間で親娘だと言う事がわかったのに、なぜ爺さんは何年も(期間は不明)一緒に暮らしていたのに自分の孫娘だってわかんないの? 


とか、


シモンが死ぬ間際、後任提督には娘の婿さんを指名するんだけど、その婿さんてのは、自分がかつて殺した政敵の息子よ。政治的見解の相違もある筈なのに、公私混同しちゃいけないんじゃないの?


それに、私生児のアメリアが行方不明になって他所の家にもらわれていく過程もよくわかんないわ・・・


等々、でも調べてる時間もないので、首をかしげながらも先に進みます。


  

家舞台と衣装くつ


新プロダクションと書いてなかったので、てっきり2002年/2004年版(先回はシコフとゲオルギューだったんよ)のリバイバルだと思って行ったら、あれれ、違うじゃん。


前のはかなりぶっ飛んだセットだったけど、斬新で洗練されてて結構好きだったのに、なによ、このためっちゃんこ古めかしいセットは!


と呆れていたら、これはなんと1991年のプロダクションの再現ですって。 


そんなのあり?


まあ、それならそれで納得だし、昔の舞台は重厚でまともでわかりやすいから、そんなことができるのであれば、まだゴミ箱行きになってない他の作品で大いにやって欲しいものです。いつも同じのより、たまにそうやって掘り出して埃を払ってご披露して下さったらどんなに楽しいか。


衣装は19世紀で、奇抜さはなく退屈なほどまとも。でも、アメリアの光沢のある青いドレスがすごく素敵。


  

音譜パフォーマンス


まずびっくりしたのは、爺さん役フィエスコの代役。だって、代役がフェルッチオ・フルラネットよ。

うんと有名な人が無名歌手の代役するのはほぼあり得ないくらい珍しいこと。この役をNYメトやスカラ座でも歌ったフルラネットが、6月に始まるドン・カルロのリハーサルでたまたまロンドンにいたのがもっけの幸いだったわけです。

彼は今までにも何度か聴いたことがあり、輪郭のはっきりしない声は私の好みではないので好印象は持っていなかったのですが、今回はさすがに素晴らしくて、彼がなぜ有名なのかを思い知らされました。この舞台の格を上げたのは彼です。これで俄然、来月のドン・カルロの彼も楽しみになってきました。


代役と言えば、アメリア役のAnja Harterosもそうで、今回の目玉だったニーナ・シュテンメが早くから降りた後、結局彼女になったのですが、名前を聞いたことがあるような気もするけど、誰かしら? そして顔ご見たら「絶対どっかで見たことのある歌手だ」と思ったら、1999年のカーディフのコンテストの優勝者でした。(今回は、忙しいのと期待が低かったのとで、説明を全く読まずに初日に乗り込んでしまったのが不覚です)


フランス大統領夫人カーラ・ブルーニ似のすらっとした美しい容姿も魅力的でしたが、甘くて艶のある声が素晴らしかったです。しかし、Cardiff Singers of the Worldの優勝者ともあろう人がROH初出演とは驚き。もっと早くに機会を与えてあげるべきでしたね。ヴェルディの他のヒロインも彼女で聴いてみたいものです。


  

            代役二人がこの夜のパフォーマンスを支えましたブーケ1


  



さて、主役のシモン役の馬面バリトン、ルチオ・ガロはと言うと、今までROHではマダム・バタフライ(シャープレス)、オテロ(イアーゴ)、チェネレントラ(おそらく家庭教師)とかの準主役でよく出てきて、充分上手だけど特に魅力は感じない可もなく不可もなくという印象しかありません。


今回始めて主役として聞いて、今まででは一番よかったけど、タイトルロールであっても他を引っ張るほどの存在感は無し。お爺さんと娘にお株を取られて三角形の最も弱いリンクでした。


因みに、ROHの次回のシモンはなんとドミンゴ先生だそうです。

テノールで苦しくなったらバリトンの役までやって役柄数を増やしたいのでしょうか?

ドミンゴ先生は元々バリトンなのを無理してテノールやってたのをいわば元に戻すだけなのですが、そこまでして執着するしつこい爺さんそこまでして頑張る見上げた根性です。でも、やるんなら誤魔化さないでちゃんと歌えよな!   

アメリアの恋人で、父娘だとちっとも教えてもらえないので彼女とシモンの仲を疑って彼を殺そうとしたりすぐかっとなるガブリエル役のテノールのマーカス・ハドックは、ルックスは悪くないけどパワー不足で主役の中では明らかに実力が劣ります。折角良いアリアもあるんだから、もうちっとましなテノールはいなかったのでしょうか?


シモンを恨んで毒を盛る手下のパウロのMarco Vratognaに至っては、何をか言わんや・・・、

こんな下手な彼が、5月14日には、途中で声が出なくなった主役のガロの代わりに急遽シモンの代役として舞台袖で少し歌ったそうですよ。うへー




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