オペラ三昧イン・ロンドン


2月7日の土曜日、バービカンのメトロポリタン・オペラ・ハウスのライブ・ビューイングに行ってきました。、タイスつばめ に続く私にとっての3作目はドニゼッティの「ランメルモールのルチアLucia di Lammermoor



メモオペラについて


ウォルター・スコットの小説に基いてドニゼッティが作曲した1835年初演のこの作品は、代表的なベル・カント・オペラの一つで、舞台はスコットランド。フランス語版もありますが、今日は一般的なイタリア語版。


ルチアお嬢様は仇敵エドガルドと愛し合っているが、兄エンコは落ち目の家運を立て直すために妹ルチアを政略結婚させようして、偽手紙でエドガルドが心変りしたと思い込んだルチアは絶望して結婚を承諾。しかし、まだエドガルドを愛するルチアは発狂して婿殿を新婚の夜に刺し殺し、それを知ったエドガルドは自殺。


古今東西、お城のお姫様にとって政略結婚は当然の義務なのに、現実離れしたお話だこと、と思うでしょうが、17世紀にスコットランドで実際に起こったことなんですって。


でも、ベル・カント・オペラにとってはお話は重要ではないですから、荒唐無稽でも構わないです。



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家舞台と衣装ワンピース


スコットランドの荒野もお屋敷も大きならせん階段も衣装も、全てメトらしいまともさと豪華さで、羨ましい限り。


だって、数年前に丸ちゃん(マルセロ・アルバレス)が出たROHのルチアは変にひねり過ぎてひどかったんですよ~。あれから一度もやってないってことは、二度と笑いものになりたくないのでお釈迦にしたのでしょうか。最近は同じプロダクションを世界中で使い回しするのが流行っているので、このプロダクションもロンドンに持ってきてくれないかしら? 面白みには欠けるけど、ロマンチックで陰惨なお話にぴったりの重厚さがなかなか良いです。


ルチアが幽霊で出てきたのには驚きました。でも、最後の場面がそれでさらに盛り上がったのはよかったけど、カーテンコールが血に染まった花嫁衣装じゃなくて(素敵なのに)、幽霊姿になってしまったのは残念。


オペラ三昧イン・ロンドン


producer ...... Mary Zimmerman
conductor ...... Marco Armiliato


Lucia ...... Anna Netrebko
Enrico ...... Mariusz Kwiecien
Edgardo ...... Piotr Beczala
Arturo ...... Colin Lee
Raimondo ...... Ildar Abdrazakov
Alisa ...... Michaela Martens
Normanno ...... Michael Myers



音譜パフォーマンスあし


女の子ルチア


今日のお目当てはアンナ・ネトレプコ(以下、いつものようにネト子)で、去年9月に出産して以来、これが初のオペラ出演ですが、復帰第一弾でいきなり世界中の人に自分をさらけ出そうといういかにもネト子ちゃんらしい強気の態度に拍手です。

しかし、歌は完全にネト子節復活でめでたい限りなんですが、体型は戻りませんでしたねえ。今のぽっちゃり丸顔の今のネト子でゃんには、あの素敵な白いスレンダーなドレス(→こちら )はとても着られないでしょう。


まあ出産後に無理して痩せるのはよくないですから、ゆっくり調整して下さい。しかし、これ以上は太らないようにお願いしますね。今月末からROHですから、それまでにはできれば少々ほっそりして頂きたいものです。


ルチアは、普通は細い声のコロラチューラ・ソプラノが歌う役で、メトのこのプロダクションでも去年ナタリー・ドゥセとディアナ・ダムラウが歌い、いかにもぴったりなその二人に比べるとネト子ちゃんには向かないという批評も読みました。


たしかにそうでしょうし、超高音の細かい転がしは完璧でないところもありました。

でも、ふくよかでちょっと暗いネト子ちゃんの声は低音から高音までそれぞれの美しさがあり、こういう肉付きの良い声のルチアもとても素敵だと私は思いました。「ああいうルチアでいいのなら、私だってできるわ」と思うソプラノも他にいるかも。


ルチアと言えば有名なのが狂乱の場ですが、ネト子ちゃんは気が狂ったルチアを大袈裟になり過ぎずに意外とあっさり演じましたが、これも彼女なりのルチアを作り出すためでしょうか?


華やかで貫禄すら出てきた絶好調のネト子ちゃんが観られて、わざわざ週末に出かけたいった甲斐があったし、ROHでガランチャと共演する「カプレッティとモンテッキ」がますます楽しみになりました。



オペラ三昧イン・ロンドン
男の子エドガルド(ルチアの恋人)


ネト子ちゃんとはいつも共演するロランド・ヴィリャソンが風邪でダウン。彼って体が弱いのかしらね? 私は彼のキャンセルをネットで知ってたけど、バービカンの観客は知らなかった人が多くて、皆さん「なに、またキャンセルだって? ドン・カルロもホフマン物語も休んだよね、彼は」、って呆れてました。


もっともネト子ちゃんさえ出ればこのオペラはいいのであって、ロンドンのオペラファンはヴィリャソンは聞き飽きてるだろうから、残念と思った人は少なかったのではないでしょうか。


しかし、代役はピョートル・ベチャーラかあ・・・


(ちょうど今メトでオネーギンに出演中で、二日前にレンスキーを歌ったばかりなんだそうです)


ROHではリゴレット、ファウスト、オネーギンに出てくれたけど、明らかに素質はあるのに集中力を維持できないので私の評価は決して高くないテノールなんです。


折角ヴィリャソンが病欠してくれたんだから、他のテノールで聴きたいのにぃ・・・と失望しながら聴き始めたのでした。

でも、今日は声もよく出て(生で聴くとどうだか、ですが)、最初から最後まで落ち着いて気を抜かずに好演してくれたので、初めてベチャーラ君に拍手を送ります。


42歳だからもう決して若手とは言えないので、今ピークにならなくてどうするんだ、と歯がゆい思いでしたが、このライブビューイングの成功がきっと躍進のきっかけになることでしょう。


ヴィリャソンに比べると歌い方も顔の表情も薄いので(誰でもそうだろうけど)、大画面ではちょっと物足りなく感じて、時折ついヴィリャソンだったらこのシーンでは必死の大熱演してくれる筈なのに、と実は感じたりもしました。

でも、それは好みの問題だし、ベチャーラ君のクールさもそれはそれで持ち味なので、文句はありません。


来月ROHのレクイエム(ヴェルディ)に出てくれるのが、今日の出来のよさで楽しみになりました。



オペラ三昧イン・ロンドン


わんわんエンリーコ(ルチアの兄)


去年の秋のROHのドン・ジョバンニ の悪ぶりがぞくっとするくらい魅力的だったマリウス・キーチェンには期待してたのに、なんだか随分押えた演技だったのでがっかりでした。


歌は文句なく上手だし、冷徹なエンリーコにわざとしたのでしょうが、私としては、ドンジョバ並に舞台狭しと動き回り、「ルチア~、わがまま言うのもいい加減にして、つべこべ言わずにお家のために嫁に行け!」、ときつく怖いお兄さんでいて欲しかった。


エンリーコ兄だってもっと大袈裟に演じてもいいんじゃないの?その方が貴方には絶対合ってるし、なんだか小さくまとまってたせいか、ドンジョバの時は堂々と大きく見えたのに、今日はちっちゃく見えました。ま、期待が大き過ぎたってことでしょう。


メガネライモンド(ルチアの家庭教師)


イルダール・アブドラザコフを聴くのは初めてですが、長身ハンサムの素敵なバリトンじゃないですか。歌も端正で上手いし。花形メゾ・ソプラノのオルガ・ボロディナのご主人だそうで、美男美女の素敵なロシア人カップルですね。来月のROHのレクイエムでは夫婦で共演してくれるので、ますます楽しみになりました。



以上、ポーランド人とロシア人二人づつの主役4人は皆さん好調で、盛り上がった舞台でしたがアップ


一人まずい人がいたんですダウン


それはホスト役のナタリー・ドゥセで、何度もバービカンでは失笑を買ってました。


幕間のインタビューではいちいち大袈裟なキャーキャー・キャラはきっといつもそうだろうから仕方ないし、フランス語訛りの英語もチャーミングなんだけど、ただ質問するだけで(なんとメモを見ながら)、相手の返答を受けて会話を前に進められないのは問題。知的で控え目で英語がネイティブなルネ・フレミングの方が、いつもやってて慣れてるせいもあるとしても、インタビューアーとしてはずっと上。



映画日本での上映


日本では2月28日からご覧になれるので(→こちら )、ネト子ちゃんファンでなくても是非どうぞ。


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