3月21日、ニューヨークのメトロポリタンオペラハウスのライブビューインングにまた行ってきました。ベッリーニのLa Sonnambula


切符代が生オペラより高いので全部には行けませんが、タイスつばめランメルモールのルチア に続き4つ目。5月にもう一つあるのですが(ガランチャのチェネレントラ)、切符が買ってなくて、バービカンではk売り切れなので、今シーズンはこれが最後の予定です。


オペラ三昧イン・ロンドン
Amina ...... Natalie Dessay (soprano)
Elvino ...... Juan Diego Florez (tenor)
Rodolfo ...... Michele Pertusi (bass)
Lisa ...... Jennifer Black (soprano)
Alessio ...... Jeremy Galyon (bass)
Teresa ...... Jane Bunnell (mezzo-soprano)
Notary ...... Bernard Fitch (tenor)

Chorus and Orchestra of Metropolitan Opera
Evelino Pido (conductor)



アホらしいオペラのストーリーの中でもこれはあり得なさではトップを争うオペラなのではないかしら。


メモ

夢遊病の女が、結婚式の前夜にこともあろうに無意識で他の男性の部屋にさまよいこんでベッドで寝てしまい、翌日皆に見つかって、夢遊病のことは何も知らない婚約者の男性はカンカンに怒って婚約を破棄(当然でしょう)、私は何も悪いことはしてないのにぃ、と嘆く彼女。

最後に彼女が皆の前で運よく夢遊病になり、事情がわかって無実が証明され、疑って済まなかったと謝る彼とめでたく予定通り結婚する、という破天荒なお話ショック!



オペラ三昧イン・ロンドン     オペラ三昧イン・ロンドン


設定に無理があること自体が問題ですが、でもこの予期せぬ出来事によって今までお互い知らなかった側面を見出して新たな展開があるというのならまだしも、ストーリーはどうでも良くて歌さえ聞かせられればOKであるベル・カント・オペラですから、ただ誤解が解けるだけでハッピーエンド。


婚約者が他の男のベッドにいたら疑うのは当たり前とは言っても、問答無用で切り捨てる嫉妬深いエルヴィーノの心の狭さは結婚相手として大きな欠点になり得るし(ヤキモチ男って嫌でしょ)、それより、夢遊病で何をしでかすかわからないアミーナはもっと怖いです。


という、これから先無事に結婚生活を送れる筈もない二人ですが、深く考えずに先に進みましょう。


こんなあり得ないお話でも上演回数は少ないもののオペラとして生き残っているということはそれなりに魅力のある音楽だという証拠。でも、こういう共感や同情を感じることが難しい人たちが主人公の場合、歌手は歌唱力だけに頼るしかないわけで、立派なテクニックと声自体の魅力が必要ですが、


幸い、今日はナタリー・ドゥセJDフローレスですから、これ以上のカップルは望めないでしょう。



オペラ三昧イン・ロンドン   オペラ三昧イン・ロンドン

男の子ちょっとふっくらしたフローレスは絶好調


アミーナにへのあまりの冷たさに村人から責められる、云わば悪役なのですが、誠実そのもののような好青年フローレスが演じるとそんな悪い野郎にも見えなくて、ぼろくそ言われてもまだ彼が好きなアミーナの気持ちもわかるような気すらしちゃうし、うんと小柄なナタリーと並ぶとフローレスも体格よく見えるし、ごく普通のジャケット姿も清潔で素敵。


一つとても残念だったのは、

これは彼の責任ではないのですが、やけに音のボリュームが大きくて、鼓膜がどうかなりそうなほど不快だったこと。お得意の軽やかな高音が割れてしまって残念ったらありゃしない。


休憩時間に誰かが抗議したのでしょう、後半はちょっとましになったので救われましたが、こないだのリサイタルで声がでか過ぎたフランチェスコ・メリじゃあるまいしし、まさか繊細なフローレスに耳をふさぎたくなるなんて信じられません。


今日は何度か一部モザイク状態になったのもいつもより回数が多かったし、テクニカル面で問題あり、という生舞台では起こり得ない不満が残りました。



女の子ナタリー
の声はフローレスよりデリケートってことでしょうか、ほぼ出ずっぱりの一番大事な主役ですから、耳栓が必要なほどではなかったのは幸いでした。キュートで可愛いし、彼女の持ち味であるコロラチューラが細~く高~く軽~く、ほぼ完璧で(ほんのちょっとだけかすれたけど)、拍手喝采クラッカー


「私の方が上手なのに、ルチアのライブビューイングをネトレプコに取られて口惜しいわ」と思ったにちがいないですが、やっぱりコロラチューラはナタリーが一番上手ということを証明し、彼女自身も嬉しかったでしょう。


でも、この役は、ルチアほとのドラマチックな悲しみも、連隊の娘の」マリーのような溌剌とした明るさもなく、なんだか中途半端。芝居も上手なナタリーだから魅せるけど、大して上手じゃない他の人だったら退屈すぎるかも。そう言えば、数年前にROHでやった時はあの下手くそなエレーナ・ケレシディだったので、すごくつまんなかったことを思い出しました。


オペラ三昧イン・ロンドン   オペラ三昧イン・ロンドン


伯爵役はアミーナが寝ぼけて夜中に訪れるというだけのどうってことのない役ですが、今日はイタリア人のミケーレ・ペトルージ。久し振りに見たらえらく老けてて、ハゲ親父になってました。一度も上手いと思ったことはないバリトンですが、今日は彼だけうるさ過ぎなかったので、きっと声量がなかったってことでしょう。歌は可もなく不可もなくってとこですが、ばりっとした衣装でダンディなおじさんぶりでした。



恋敵のリサ役のジェニファー・ブラックは初めて聞く名前ですが、損な役回りながらしっとりと上手に演じて、同情を集めてました。



オペラ三昧イン・ロンドン   オペラ三昧イン・ロンドン


ということで、主役二人の魅力でパフォーマンスは文句なしに素晴らしくて感心しましたが、頂けないのは舞台セットと衣装


スイスの村にある旅籠という元の設定が、この新プロダクションではニューヨークの劇場の稽古場に読み替えられていますが、ホテルということにしないと辻褄が合わないので、この設定は失敗でしょう。このライブビューイングの見せ場でもある大掛かりなセットの入れ替えシーンもなく、その面でもつまんなかったし、大画面でゴミ箱をアップされるなんてとても嫌です。現代にするのは構いませんが、これではあまりにもリアルで夢がなさ過ぎ。



でも、これではいくらなんでもと作る側も思ったのか、最後にちょっとだけセットが変って、皆が綺麗な衣装で出てきて「おぉ~っ!」というまるでタカラヅカのラインダンス的要素の場面があるので、貧乏ったらしく終わらなくてよかったです。


でも、時間切れだったのか、カーテンコールをちょっと見たらいきなりブチっと終わってしまったのが興醒め。最後まで技術的なことで不満の残るビューイングでしたプンプン



いつも有名歌手が出てくる開演前と休憩のホスト役、今日は元百貫ソプラノのデボラ・ヴォイト。今でもかなり太目ですが、金髪碧眼で美人だし、彼女のきっぷの良いチャキチャキ姉御風の喋り方が好きです。

7月にROHのトスカに出てくれるのですが、共演がブリン・ターフェルとマルチェロ・ジョルダーニだから、でかい男二人に挟まれてほっそり見えるといいですね、デボラさん。


                                人気ブログランキング  ぐぅぐぅ