<1月17日(日)>
久し振りに晴れて穏やかな普通の日に戻りましたが、私は家でのんびりごろごろとブログ三昧。
でも、溜まってるオペラやコンサート記事をすっ飛ばして、昨夜のカルメンをまず書いてしまいました。
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1月16日、バービカンの映画館でNYメトロポリタン・オペラの同時生中継があり、美しいカルメン、ベテラン名人芸のドン・ホセ、一流のミカエラ、嬉しい驚きの代役闘牛士を大画面で堪能しました。生中継ならではのハラハラ場面もあり、バービカンの映画館も盛り上がりました
カルメンってどんなお話かご存知ない方は→こちら
をご覧下さいですが、要するに、奔放な浮気シプシー女カルメンに惚れて身を崩す嫉妬深いマザコン元祖ストーカー男の話です。
Carmen: Elina Garanca
Don José: Roberto Alagna
Moralès: Trevor Scheunemann
Micaëla: Barbara Frittoli
Escamillo: Teddy Tohu Rhodes (Mariusz Kwiecienの代役)
Dancaire: Earle Patriarco
Remendado: Keith Jameson
Zuniga: Keith Miller
Frasquita: Elizabeth Caballero
Mercédès: Sandra Piques Eddy
Yannick Nézet-Séguin
Orchestra and Chorus of Metropolitan Orchestra
Director; Richard Eyre
切符を買ったのは去年の5月でしたが、その時はカルメンはアンジェラ・ゲオルギューということで、アンジェラのカルメン(おそらく生は初めてでしょう)を楽しみにしていたのですが、ご存知の通り、この夫婦は破綻し、カルメンはエリーナ・ガランチャに。
アラーニャとガランチャの組み合わせは10月にROHでなんと6回も観たので、又同じかとがっかりでしたが、まあ生舞台と映像は別物だし、ビジュアル的にも歌唱的にも最強コンビであるこの二人を違うプロダクションの大画面のアップで観られるのであればいいかと。切符代高いんですけどね(ひとつだけだと25ポンドもするんです。私は6つまとめ買いで15ポンドづつでしたが、それでも生オペラより高いわ)。
で、どうしてもROHと比べてしまうわけですが、
主役コンビはもちろん両方素晴らしいものの、結論を先に言ってしまうと、プロダクション自体としては、私はROH版の方がうんと好きです。
NYメト版は回り舞台にもなってたりして凝っててお金も掛かってそうなのですが、色調が冷たいのでセヴィリアの熱気が感じられずペケ。テラコッタ色の壁だけみたいな経費節約型のROH版もイマイチだけど、衣装も含めるとROH版の圧勝だと思うのは私だけではない筈。こんな寒々しいカルメンなんて・・。映像になってる古いバルツァとカレラス版の方がずっと良かった。そうなんですよね、新しいプロダクションにして前よりよくなるってことは少ないですから、悩むところでしょうが、
今回のメト版は時代を1940年代くらいに読み替えてあり、ミカエラのぴらぴらで安っぽいワンピースは最悪だし、煙草工場の女工たちのそっけない上っ張りも色気ゼロ。その現代服の中でなぜかカルメンと仲間だけは昔風なのもちぐはぐでだし、ドンホセが軍服の上着を脱ぐとだらしない下着シャツなのも嫌。ROH版の衣装はまともだけど洒落ててとても素敵なんですけどね。
衣装が全てゴチャゴチャしてダサいので、折角ガランチャがあんな美人なのに勿体ないったらありゃしない。特に山賊のアジトで着てる毛布を巻きつけたような重苦しいいでたちはひどくて、次に並の容姿の人がやったら目も当てられないでしょう。
ガランチャの化粧はやけにあっさりしてるので更にズボン役風に見えてしまい、それが彼女の持ち味だしそういう男らしいキリッとしたカルメンもいいんじゃないかとやっと思えるようになったので私は構いませんが、でもやっぱりROH風の濃いアイシャドーの方が妖艶でいいのではないかしら?
ガランチャの歌が素晴らしいのは言うに及ばず、というかROHの時に散々賞賛したし私にとっては予想通りの当たり前なのですが、初めてご覧になる方は感動する筈ですから、ガランチャを観るだけでもライブ・ビューイングに行く価値ありと思います。ROHの時はまだ模索してる状態だったけど、こうして違うプロダクションで揉まれながら段々確立していくんでしょう。まだまだガランチャ・カルメンは進化しますね。
今回の演出では意外に太い脚をたっぷり出してROHよりたくさん踊ってくれて大奮闘でしたが、でも、やっぱり男役で観たいわ、凛々しいガランチャは。
ドン・ホセ
アクション山盛りのカルメンに圧倒されてか、ROH版と比べるとおとなしいドン・ホセだったとと思うのは私だけかもしれません。だって、まだあの秋のROHでの涙まで出す執念のストーカーのアラーニャの大熱演をまじかで何度も観た感動が強く残ってるので、衣装やメイクも含め全体にクールだった今回のドンホセはちょっと物足りなかったんですもの。やっぱり生の迫力には敵わないってことでしょう。
でも、もちろん完全に自分のものになっていて、誰よりもぴったりな名人アラーニャ・ドンホセですのでお見逃しなく。民謡歌手としては稼げないことがわかったアラーニャ、本業のオペラでひたすら頑張アラーニャ~!
ミカエラ
脇役にこんな大スターが出るところがメトの凄いところで、今までろくなミカエラが出たことのないROHはとても勝負できません。
ドンホセに想いを寄せる清純な村娘というには大御所フリットリは貫禄があり過ぎて、中年体型がもろに出てしまう安物ワンピースのせいもあり、ミカエラのお母さんが代わりに来たのかって雰囲気になってしまい、ビジュアル的には彼女だけ役柄とかけ離れてしまった損ですが、歌はさすが。むらなく美しい声で、アリア的にはもうけ役のミカエラを歌で勝負して得点上げてました。でも、彼女はこんな役には勿体無い人です。
闘牛士
これが今回の嬉しい発見。マリウス・キーチェンが急遽病欠した代役だったんですが、長身でハンサム、誰だってドンホセを棄ててエスカミーリョに鞍替えしそうな素敵な人だったんです
Teddy Tafu Rhodesという若いニュージーランド人なんですが、当日の開演3時間前に出演依頼をされたそうです。
「前日に言われなくてよかったぜ。きっと緊張して眠れなかっただろうからな」と幕間のインタビューでホストのルネ・フレミングに言ってましたが、そんな急な話でも衣装も演技の振り付け(ナイフ喧嘩場面もあるし)も大丈夫だったのは、彼が2月に元々2回だけ出演する予定で準備万端だったからです。
期待されるようなあまりぱーっと派手な闘牛士ではなかったですが、それは彼も言うように「周囲の反応だけで彼がスターだということはわかるので自分は敢えて抑え気味にした」からだそうです。
しかし、立派な体格のローズがばりっとした衣装で立っているだけで華があるのでいいのですが、次回はチンケなバリトンだったら地味過ぎかも。
歌も充分合格で、硬い声質で声量も充分そうなので、たとえ一本調子でもとりあえずぶちかませばOKの闘牛士役はキーチェンより向いてるかも。
メトのサイトからぱくった写真の闘牛士は当然キーチェンばかりなので、他からローズを探したのですが、アセアニアではそこそこ人気ありそうなのに写真は少なくて、失礼ながらこのパンツ姿が一番ましかと
とにかく、ローズ君、競争激しいバリトン界だけど、この棚ボタ好機を躍進のチャンスにしないと駄目よ。そして、今度は脱ぐ役で(ROHのドン・ジョバンニはどうかしら?)お願いします。
メトのライブ・ビューイングはあと3つありますが、そのうち私が行くのは2つで、3月末のハムレット(トマ)と5月のアルミーダ(ロッシーニ)。
日本での上映予定は→こちら をご覧下さいですが、カルメンは2月6日からみたいですね。
あ、来週末からやっと「ホフマン物語」が始まるんですね(→こちら )。
3500円もするし、カルメンとホフマンとどちらかしか観られない方には、カルメンをお勧めします。