<11th March Sun>
ブログ書きにいそしんで、ドン・ジョヴァンニもほぼ出来ましたが、その前にコンサート・オペラをアップしとこ。
来週はまた結構忙しくて、明日はオペラ、明後日はバレエだ。
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観たオペラやコンサートの全を記事にすることは無理なんですが、写真とか準備してても結局ボツになってしまうのはどうもコンサート形式のオペラのようです。私にとってオペラは舞台やセットも含めての総合芸術というよりは、パフォーマンスが一番肝心なのであって、歌う方も聴く方も歌に集中できるコンサート・オペラは理想的で大好きなのに、なぜかしら?
このバービカンでのモーツァルトの皇帝ティ-トの慈悲La clemenza di Titoは行ったのが2月22日ですからかなり時間が経ってますが、これは意地にでも省略しないでアップするんだ!
どんなオペラかと言う椿姫的解釈は過去の記事(→こちら
)を以下、ちゃっかり再利用しちゃいますが、要するに、
お人好し過ぎる古代ローマ皇帝と、オペラ悪女ナンバーワンで皇妃になるためにはなんでもする野心的美女と、その性悪女にいいように利用されるお馬鹿な野郎との三つ巴。私ら一般市民には縁のない権力の話で、あり得ない筋書きなので感情移入は難しいですが、はっきりとしたキャラクター揃いでわかりやすく、風格漂うオペラです。
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1791年プラハ初演のこのオペラ、ボヘミア王レオポルド二世の戴冠祝い用であるからして、「王様は人徳者」というテーマにしなくてはならず、無理な設定でオペラでしか存在し得ない人たちばかりが出てきます(言い換えれば、これぞオペラ!)
舞台は紀元前79年のローマで、主役3人はこんな人たち。
ヴィッテリア(先代ローマ皇帝の娘)
現皇帝ティトの后になるのは前皇帝の娘である私が最適に決まってんじゃん。だけど、皇帝は私を差し置いて異教徒の女を妻にしようってだから腹が立つじゃないの。そんな男は死ねばいいのよ。そうだわ、私にぞっこんのセストに皇帝を殺してもらおう。
えっ、異教徒の女との結婚はやっぱりまずいから止めた?
セスト~!、暗殺は中止よ。代わりは当然この私だわね。なんですって、セストの妹が候補者ですって?んまあ、なんたる侮辱。許せない!セスト、やっぱり暗殺計画は実行よ。
でも、え~っ!またもや変更で、今度は私ですって?
ゲゲッ、もうセストは暗殺に向かってて、止められない・・
(ヴィッテリアさん、冷静に考えれば、殺すべきなのは皇帝自身じゃなくて、ライバルの女たちなんじゃないですか?邪魔なお后候補を片っ端から消せば、例え皇帝がヴィッテリアさんに魅力を感じてなくてもいつか順番が回ってくる筈)
セスト(ローマの戦士で皇帝の親友。ヴィッテリアの恋人)
恋人と親友の間で僕、困っちゃったんだ。あちらを立てればこちらが立たず、なんて生易しい選択じゃなくて、ヴィッテリアの望みを叶えれば賢い皇帝が死んでしまうんだぜ。結局、友情が愛欲に負けて、ヴィッテリアの陰謀に加担することにしたのさ。だけどドジ踏んでちがう人を刺しちゃったんで面が割れて逮捕されちまった。ヴィッテリアにそそのかされたって白状すれば罪も軽くなるんだろうけど、愛する女性を守るために死んでもばらすもんか。
(「セストや、女性はね、容姿で選ぶんじゃないよ、大切なのは気立て」ってお母さんに教えてもらわかったの?いくら美人でセクシーでも自分の都合だけでころころ変る腹黒女のために全ローマが尊敬する皇帝を暗殺しようなんて。「優先順位のつけ方」というセミナーにでも行きましょうね)
皇帝ティト
かけがえのない親友だと信じてたセストが私を殺そうとしたなんて。なぜだ、なぜだ、なぜなんだよ~?(←西城秀樹風にね)。本人は絶対口を割らないけど、よほどの理由があるにちがいない。 元老たちはセストは死刑と決定したが、ここは私の一存で無罪にしてあげよう。
(皇帝さん、すぐ近くに、「わらわがお后にならいでどうする!」とメラメラ燃えてて家柄も申し分ないヴィッテリアがいるのに気付かないで、君主として配慮が足りませんでしたね。そのためにちがう人が犠牲になったし、ローマも炎上しちゃいましたもんね。それに、親友だからってえこひいきして無罪にするってどうよ?名君主は公正でなきゃいけなくない?)
という、オペラ界きっての「性悪女」と「お馬鹿」と「度を越したお人好し」のトリオが古代ローマ宮廷を舞台に繰り広げる一大絵巻。と言っても今回もコンサート形式でセットも衣装もゼロなので想像しなくちゃいけないんですけどね。
あ、まだオチがあって、刑場であるコロシアムで、
「お待ちください!皆々様、全ては私、ヴィッテリアの策略でございます。私のためにセストは皇帝を殺そうとして、しかも罪を自分で被ろうとしているんです。そんなことされた日にゃ、罪の意識に苛まれて后妃になってもおちおち寝てられません。」
「なぬーっ、今まさにセストを許してやろうってとこだったのに、また一人罪人だなんて!しかも后妃候補のヴィッテリア。ええ加減にせえよ! ええーい、もう全員許してちゃる。」
皆の衆「慈悲深い皇帝、万歳!」
(「なにしたって皇帝が許してくれるからな」、ということになってしまうローマが心配・・・。ティトの在位期間はうんと短かったのが幸いだったかも。
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前置きが長いですが、ここからが今回の感想です。
La Clemenza di Tito
Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
Louis Langrée conductor
Michael Schade Titus
Alice Coote Sextus (Elina Garancaの代役)
Rosa Feola Servilia
Malin Hartelius Vitellia
Christina Daletska Annius
Brindley Sheratt Publius
一年以上前に切符を買って一番楽しみにしてたのはセスト役が美貌と歌唱力を兼ね備えた花形メゾのエレーナ・ガランチャだったからですが、なんと1ケ月近く前になって「出産後まもないガランチャはこの大役をまだこなせる自信がない」と言う理由でキャンセルされてしまいました コンサート形式なら演技しなくてもいいし、音譜見ながら歌えばいいんだから、出産前のレベルに戻るため
の準備としてはちょうど良いんじゃないのかしらと思ったりしますが、もしかしたら、切符の売れ行きが悪かったのもガランチャのやる気が失せた理由の一つでしょうか?もしそうであれば、今シーズンから切符代を暴騰させたバービカンのせいだ
がっかりですが、ガランチャが出ないのならと行くのを止めたりどうしようか迷ったオペラ仲間もいたけれど、私にはもう一人お目当てがいたし、ガランチャの代役のアリス・クートもルックス以外ではガランチャにそんなにひけを取らない上手な人ですから、私は絶対行きますとも
で、ガランチャ降板のせいで更に客が減り、ちょっと淋しい客席でしたが、結局最後はとても盛り上がり、迷った人も来てよかったと思ったのではないでしょうか?
パフォーマンスは、音譜を見ながらであっても皆さん芝居っ毛たっぷりで、かぶりつき席から細かい表情もよく見えて、まるで映像アップで見てるような満足感もあり、やっぱりこの形式は良いわと再確認。
ガランチャ以外のお目当てだったのは皇帝ティートのミヒャエル・シャーデ。先回(20087月)のコンサート・オペラで線の細いトビー・スペンスも意外に良かったけど、この役はやっぱり包容力ありそうなごつい体格と細いけどパワフルな声のシャーデの方が威厳ある皇帝にぴったりで、予想通りの素晴らしさでした。前から3列目だったので、彼が力強く歌う箇所では張りのある声に張りビンタされるような快感
ズボン役のセストは精神的な葛藤の芝居的見せ場も充分な上にコロラチューラの華やかな有名アリアがあって得な大役なのですが、イギリスを代表するメゾ・ソプラノであるアリス・クーテは、先回もこの役は彼女だったのですが、さらに歌唱力が上がったようで、余裕たっぷりの歌と演技。小柄でブスなので、長身美人のガランチャほど舞台映えしなけど、ドスの利いた男らしい迫力という点では勝てるかも。
シャーデとクートの一流ぶりに比べると他の歌手たちは格下で特に上手な人はいなかったので、全体としては前回の方が水準高かったですが、その中では小さな役だけどセルヴィリアのローザ・フェオラのぴんと張った声が私は好き。
大事なヴィッテリア役はもう少し上手な人に歌って欲しかったですが、マリン・バルテリアスは決して下手ではないし、すらっとしたクールな美貌と素敵なドレスは雰囲気的にはぴったりだったので良しとしましょう。
モーツァルトらしい乗りのオケと指揮者は素晴らしかったです。
このオペラ、ROHではなぜか10年間やってくれないのですが(素晴らしいプロダクションだったのに)、12月にNYメトはHD生中継もあり、ガランチャだけでなくフリットリも出るので、切符も馬鹿高いし敬遠してる映画館オペラ中継ですが、久し振りに観に行こうかかしら?