今回は日本で着物を着るつもりで、すでにいくつかイベントをセットしました。


ここ何回か日本に行く度に実家で箪笥の肥やしになっていた着物や帯をロンドンに運びましたが、今回もそうするつもり。私は小さい時からお琴を習っていたので演奏会用の着物を何枚か持っていたのです。ほとんど10代のときに作った着物なので随分派手ですが、ロンドンでは平気平気。


でももう持ってきてロンドンで着られそうな着物もあまり残っていない筈なので、次に狙うのは母の着物。特に着物好きというわけではないけれど、昔の人だから最低限は持っているでしょう。私が子供のときの入学式や卒業式には親は皆羽織姿でしたし、私の母はモノを捨てられない性格だからきっとそのまま行李に入っているにちがいありません。私は姉妹もいないし、兄嫁さんも着物に興味なさそうなので、廃品回収業者になってあげましょう、と提案するつもり。


それでスーツケースが一杯にならなかったら、古着屋さんを探索するのも楽しそうです。


長い間どんな着物を持っていたかほとんど覚えてませんでしたが、一つだけ思い入れのあった着物をお見せしましょう。去年の夏に写真だけ撮りました。暑いので娘に羽織っただけですが。

振袖 一張羅の振袖 (クリックで写真拡大します)

この着物は娘が二十歳とかになったら日本でちゃんと着せて写真を撮ろうかと思っているのでまだしばらく実家に置いてもらう予定ですが、私の成人式用に作ってもらった一張羅。(もっとも我が町の成人式は華美になるのを防ぐため着物禁止令が出たのでその日は着ませんでしたが)


これは「むすび糸」と言って、15センチ程に切られた「くず糸」を手で結んでつなげて一本の長い糸にしたものを白地に織ってもらい、選んだ柄を染めてもらうのです。一反分で数千回も結ぶわけで、値段は安いのですが大変な手間で、1,2ケ月は掛かったでしょう。母と私も少し手伝いましたが、ほとんどは祖母がやってくれました。


割と太い糸なので織り上がった布地はどっしりとした量感で、結んだ部分ががポチッと盛り上がって、それが独特の味わいを生み出しています。


母方の祖母は高学歴で当時にしてはとても珍しいオフィス勤めをしていたそうでキャリアウーマンの走りのような女性だったのですが、女性らしいことが嫌いなために周囲に責められて辛い目に合ったようです。私が渡英するまで同居していたのですが、普通のおばあさんさんのように縫い物などはせずいつも本を読んでいました。

そして私が一人で外国に行きたいと言った時は、「そんなことができる時代になってええなあ。わしが若いときにそんな機会があったら絶対そうしとった。応援するから行きなさい」と言ってくれました。今とちがって外国に行くなんてとんでもないといういご時世でしたから当然他の家族は心配して反対しましたが、ばあちゃんの分まで頑張ってこいというのが、50年早く生まれ過ぎた彼女の励しでした。


おばあちゃんの物、私は何も持ってませんが、この着物が形見だと思っています。


なーんて、珍しくしんみりしてしまいましたね。いくらなんでもちょっとこの着物は私は着られないと思いますが、結んでもらった思い出はいつまでも残るし、ずっと手元に置いておくつもりです。

・・・しかし、派手でもオペラハウスでなら着てもいいかな??