4月24日にCadgan HallでのEnglish Chamber Orchestra(ECO)のコンサートに行きました。

ほとんど「日本の夕べ」という雰囲気だったのは、指揮者が村中大祐 さん(クリックで経歴ご参照)、ピアノが小川典子 さん(同じく)だったからだけではなく、ものすごい割合の観客が日本人だったからです。日本人が多いと言えば、例えばバイオリンの後藤みどりさんのコンサートなどもそうですが、それでもまだ数は知れたものだし、有名人である後藤さんを生で聴こうと自分で切符を買った人なのですが、昨日は全然動機のちがう人たちのようで、スポンサーになって切符を引き受けた多数の日本企業筋と思われる日本人が何百人もいたのです。


そういう私もその一人で、2年前にできたこのホールを見たかったし、チャンスがあれば小川さんも聴いてみたいと思っていたので、ほんの数日前にカルメンさんに誘って頂いたとき喜んでご一緒させて頂くことにしました。このコンサートのことを以前に知っていたとしても自分で切符を買うほどの興味はありませんでしたが、久し振りに着物でコンサートもいいなという不純な動機もありました。


というわけで、あまりコンサートとしては期待していなかったというのが正直なところ。ECOは何度か聴いていますが、余程の有名ソロ演奏家が一緒に出ない限り、特に聴きに行く気にもなりませんしね。


ビル

お目当てのカドガン・ホールは教会を改造した9百人収容のコンサートホールで、かまぼこ型の白を基調にした元教会らしからぬ空間は広くて明るくて新しくて極めて心地よく、音響も良いので歌やピアノのリサイタルに最適。スローン・スクエアというおハイソな雰囲気漂う地域にあるので環境も洒落ていて、ステンドグラスも素敵。機会があれば是非また行きたいものです。


私の席は2階の正面のほぼ一番後ろ。かぶりつき席が大好きな私には物足りないですが、オケの音がまとまって均等に聞こえるという点では良い席なのでしょう。


音譜

曲目はごっちゃ混ぜというか不思議な組み合わせで、武満徹のHow Slow the Wind、ベートーベンのピアノ協奏曲第3番、モーツァルトのフルート協奏曲、ラベルのLa Tombeau de Couperin(クープランの墓)という統一性のなさ。それとも私が気が付かない共通テーマがあるのか?



武満は何度か生で聴いたことがありますが、私にはその良さが理解できません。いつも短いので我慢できますが、あれで何十分もやられたらたまりません。


ベートーベンのピアノコンチェルトがこの日の目玉で、お待ちかねの小川さんの演奏ですが、この曲は1年半前にキーシンとLSOで聞いたことがあり、しかもかぶりつき席だったので、比べてしまうと迫力の差はいかんともしがたいものがあります。オケの人数もちがい、室内楽オケであるECOではやっぱり音が薄かったです。

小川さんの演奏は私が予想した通りの出来で、きっちり丁寧に弾いて充分世界に通用する技量なのですが、一枚看板で大コンサートホールを満員にして熱狂させる程の力があるかというと、同じ日本人女性ということで例にするのもナンですが内田光子さんのレベルにいくまでにはまだかなりの道のりかも。などと、たった一度聴いただけで言いきるのもフェアではないので、今度Wigmore Hallあたりでリサイタルをなさったら行ってみましょう。


小川典子        村中大祐

    キュートな小川典子嬢          キュートとは言い難い村中氏


パーパー

しかし、案の定、ベートーベンの協奏曲で第一楽章が終わったところでかなりの拍手があったのは、この日の観客が普段コンサートになど行かない人もしくは初めての人がいかに多かったという証拠でしょう。第一楽章終了時拍手事件はしばしば起こりますが、たいていは何人かがパラパラと拍手をしてもすぐに「あっ、しまった!」と気付いてストップするのですが、こんなに堂々と大人数のパチパチ続いたコンサートは初めてです。 ま、いいんですけどね、でもやっぱりちょっと恥じかしい・・。 


モーツァルトのフルート協奏曲というのは初めて聴いたけど、ソロのWilliam Benettというおじさんのフルートの音はなんだかかすれてて、尺八みたいでした。

ラベルが一番よかったですかね。

cadgan hall


さて、何百人も日本人がいて女性もとても多かったのに、和服姿は私とカルメンさんの二人だけ。いつもはオペラハウスで着付けがぐしゃぐしゃでもまあいいやと気楽なものですが、この日は緊張しました。しかし、いいか悪いかは別にして、「日本の夕べ」になってしまったこの夜、私たちがその雰囲気作りに一役買ったのではないかと思います。浮いてましたけどね、そりゃ。

願わくば、私たちを見て「あら、やっぱり着物っていいわねえ。私も今度着てみようっと」と思ってくれた人がいて、本当にトライしてくれますよう! ロンドンで着物をワードローブの肥やしにしてる人も絶対たくさんいるにちがいないのですから。


カクテルグラスワインお団子

終了後、ロビーでちょっとしたパーティがあり、招待状のある人だけのはずなのになんだか誰でもウェルカムみたいで、ワインとおつまみを頂きました。何人かのスピーチもあり、1987年にリーズ国際ピアノコンテストで入賞して以来イギリスにお住まいの小川さんは達者な英語で流暢にお話されましたが、村中さんはイタリア語ならできるのですがと言い訳してほとんど日本語でスピーチなさいました。そうそう、「日本の夕べ」ですから、他の人は無視しちゃっても構わないんですよ~。


というわけで、色々珍しい体験ができて楽しかったです。切符を下さった某企業さんとカルメンさんに感謝。



ドクロ

しかし、これほどスポンサーに頼るコンサートというのも、色々考えさせられます。


などど感慨に耽っていたら、思い出しました、もうすぐもっと大規模な日本企業の犠牲が出るにちがいないイベントがあるんですね。


6月26日から7月13日のCity of London Festival がそれで、これは毎年シティのあちこちの建物で行われるのですが、今年は日本特集だそうで、たくさんの日本企業が寄付やスポンサーを強いられるにちがいありません。

昨日のコンサートでも日本大使館の人のスピーチがありましたが、ああいうところは果たしてお金も出すのでしょうか、それとも民間企業に圧力を掛けるためだけに名前を連ねるのでしょうか?

私は会社から近いのにも拘わらず一度も行ったことがありません。行きたいと思うコンサートがないんですもん。でも、今年はどっかから余った切符が無料で降ってくるかもしれません。無料なら何にでも行くわけではないですけどね。

あっ、小川典子さんも出ます。小野洋子さんのvisual artなんてのもあるし。