3月5日、バービカンでEvegeny Kissinのピアノリサイタルがありました。
曲目
Schubert Sonata in E flat major, D568
Beethoven 32 Variations in C minor, WoO80
Brahms Six Pieces, Op.118
Chopin Andante spianato & Grande polonaise brilante, Op.22
(アンコール)
リスト 愛の夢
メンデルスゾーン Spinning Song
Vホロヴィッツ編曲 カルメン変奏曲
メンデルスゾーン (another song)とだけ言い、曲名は不明
ショパン 子犬のワルツ
ロンドンでのリサイタルはちょうど一年振り。去年3月のリサイタル 同様、私は前から2列目のややピアノ寄りのほぼど真ん中でピアノからの距離は約3メートルといううベスト席を今回も手に入れることができました。いつも切符発売初日に頑張ってネットで買いますからね。これも一年以上前ですよ、買ったのは。しかし、去年は23.8ポンドだったのに、今年は31.75ポンドというすごい値上がり(いずれもGreat Performersシリーズのまとめ買いで15%割引)。
去年のリサイタルはまあ彼としては普通の出来でしたが、去年9月のLSOコンサート は続けて2回とても不調で、そんなことは初めてだったし、さて今回はどんな出来なんだろうかと心配しながら聴きに行きました。
まず、彼が登場したときに思ったのは、「太ったわね~」ってこと。35歳のキーシン、まだ中年という年ではないけど、2年くらい前からお腹が出てきたのは気がついていたけど、ついに首のまわりにも肉が随分付いて、この調子でいくと来年は二重アゴだぜ~。それに今回は肌も荒れてて、顔がブツブツだった・・・
などどいうコスメティックなことはまあどうでもいいのであって、さて演奏は?
いつも最初の数分間はぎこちなくて、初めて聞く人は多分「えっ、キーシンってこの程度なの?」とちょっとがっかりすることが多いだろうと思うのですが、今回は比較的出だしはスムーズにいったのではないかと感じました。音も悪くない。
地味で聞かせどころが少ないので退屈だった一曲目のシューベルトのソナタに比べると、次のベートーベンはキーシンらしさが出せる変化に富んで派手な曲。彼の強味である左手の力強さが際立って、聞いていてとても楽しめました。一緒に行った友人は音大ピアノ科卒なのですが、このベートーベンのvariationは卒業の課題曲だったそうで特別の感慨があり、「でも彼が弾くと全然ちがう曲に聞こえるわ~」と感激してました。
休憩後のブラームスは玄人好みの端正で落ち着いた曲で、何度も聞くと良さが段々わかる曲なのでしょうが、初めて聞く私には残念乍らその深さが理解できず、私には一番印象の薄い演奏でした。静かな部分が多かったので、近くにいた私には彼の苦しそうに唸る声も何度か聞こえました。
今日は4人の作曲家の曲を弾いてくれて変化があったのはありがたかったのですが、最後のショパンが最も有名でお馴染みの曲だというだけでなく、私は一番気に入りました。もう「華麗」としか言いようがないくらいの目も眩むような鮮烈なテクニックでひたすら美しくしかも力強く・・・。
キーシンを何度も聞き過ぎたせいか、それにこれ以上の技術的上達は望めないだろうし、そりゃ感激が薄れるのは仕方ないことだわね、とそれまで聴きながらちょっと淋しい気持ちになっていたのですが、これを聞いてやっぱりキーシンは天才だわと改めて感心。7、8年前に彼を初めて聞いたウィグモア・ホールの全部ショパンの素晴らしいリサイタルの感激が蘇ってきます。
アンコールは5曲。他のところでは(去年の日本でも)、10曲くらい弾くことはざらにある彼にしては出し惜しみだけど、ロンドンではいつもこの程度なのよね。住んでる地元だからリラックスし過ぎてサービス精神が起こらないのかしらね?しかも5曲と言ってもほとんどがほんの小品。
その中で一曲素晴らしい技と音楽性を披露してくれたのはウラジミール・ホロヴィッツ編曲のカルメン。アンコール曲の前に客席に向かって、例えば「ショパンのエチュード!」とぶっきらぼうに強いロシア訛りで叫ぶのですが、このときは「言わなくても誰でもわかるでしょう」とだけ言い、始まるとなるほど~という皆のどよめき。リズムも変化があって面白い編曲でしたが、右手と左手でそれぞれカルメンのちがうメロディを同時に弾く箇所があり、これには度肝を抜かれました、ワタクシ。どうしてそんなことができるの~?!
はーい、ではいつものようにカーテンコールの撮影でーす。が、・・・
こうやってまず頭をぐっと上げて、
一気にお辞儀するので、近過ぎる私は良いアングルの写真が撮れないよ~
やってるうちに髪がふわーっとしてくるのですが、
この後は今年の9月と来年の1月にオケとの共演のかぶりつき切符が買ってありますが、次のリサイタルはいつなのでしょうか?去年はロンドンと同じプログラムで日本でもリサイタルやりましたが、今年はどうでしょうね?
しかし、キーシンばかり聴いているのもつまんないので、今年から来年に掛けて他のピアニスト何人かにも行くことにしてて、まず来月は中国人ピアニストのランランです。世界のトップに躍り出て間もない若手の演奏が一番期待できるので楽しみです。
ブレンデルやポリーニも買ってありますが、これは彼らが老いぼれる前にもう一度生で聴いておこうというちょっとちがう理由だったりします。来年はバレンボイムがベートベンのソナタを一気に全部演奏するというお楽しみシリーズもあり、めぼしいのはすでに確保済みです。