オペラ三昧イン・ロンドン

1月10日にニューヨークからの同時生中継で観たプッチーニのLa Rondineについては、すぐに「きゃーっ、大変!アンジェラが風邪ひいちゃった」、ということだけ<その1> で速報したのですが、それからずっと放っておいて、すみませんでした。(因みに、アンジェラはその次のパフォーマンスには当然出なかったそうです)


今更なんだよ~って仰るでしょうが、1月31日からの録画による日本公開(詳細は→こちら )に行こうかどうしようか迷っている方のお役に立てるかもしれませんので、書いておきます。


オペラ三昧イン・ロンドン
クリップ

Production Nicolas Joel
Set & Costume Designer Ezio Frigerio
and Franca Squarciapino


Magda ...... Angela Gheorghiu (soprano)
Ruggero ...... Roberto Alagna (tenor)
Lisette ...... Lisette Oropesa (soprano)
Prunier ...... Marius Brenciu (tenor)
Rambaldo ...... Samuel Ramey (baritone)
Perichaud ...... David Won (baritone)
Gobin ...... Tony Stevenson (tenor)
Crebillon ...... David Crawford (bass-baritone)
Yvette ...... Monica Yunus (soprano)
Bianca ...... Alyson Cambridge (soprano)
Suzy ...... Elizabeth De Shong (mezzo-soprano)
Metropolitan Opera Orchestra and Chorus
Marco Armiliato (conductor)

クリップ


あらすじだけならメチャンコ単純で、


中年銀行家のお妾さんをしているマグダは、田舎のお坊ちゃまと出会って恋に落ち、パリを離れて一緒に暮らし始め、彼の親から結婚の承諾もしてもらうが、妾だったことを秘密にしている罪悪感に耐え切れず、汚れた過去を告白して身を引き、元の生活に戻る。 


(ほら、2行ちょっとで書けちゃった。)


要するに誰も死なない「椿姫」です。ヒロインが死なないのはプッチーニにしては珍しいですが、それはこれがオペレッタとして注文された作品だからで、歌わないで喋るだけの台詞も少しだけあります。普通オペレッタはハッピーエンドなのですが、「つばめ」の終わり方は、プッチーニの他のオペラ(トスカ、マダム・バタフライ、ラ・ボエーム)に比べれば悲劇度はうんと低く、ちょっと感傷的って程度なので、音楽も軽く割と陽気で、聴き易い作品です。1917年初演。


因みに、「つばめ」というのは、ルジェロが若いツバメという意味ではなくて、「マグダは燕のように海を渡って夢の国へと海を渡っていくがまた元の巣に戻ってくるだろう」という詩人プルニエの手相見のお告げです.。


オペラ三昧イン・ロンドン
ワンピースプロダクション宝石緑


オリジナルの時代設定は知りませんが、このプロダクションでは1920年に読み替えてあり、チャールストンでも踊り出しそうな衣装も舞台もカラフルで洒落てて素敵です。


メトロポリタン・オペラは新演出と称していますが、実はもうおあちこちですでにご披露されているもので、最初は2002年のロイヤルオペラハウスの筈(インタビューでアンジェラもそう言ってたし)。


もちろん観に行きましたよ。2回。主役カップルは今回と同じアラーニャとゲオルギューでした。


そもそもこのオペラはこの二人がやろうと言い出してCDになったり上演されるようなったもので、2002年のROHプレミエでは仲良く共演。舞台でやたらベタベタしてました。しかし、その後夫婦仲がおかしくなり、2004年の再演ではゲオルギューは出たけど(これはほとんど彼女のためのオペラだから)、恋人役はちがうテノールでした。


(それがなんと今をときめくジョナス・カウフマンでしたもんね!その時は、若くてハンサムだけどこの役には合わない重い声だし、ゲオルギューの共演者にしては釣り合いの取れない駆け出しニーチャンとしか思えませんでしたけど)。


音譜パフォーマンス


ゲオルギューが風邪でかすれ声だったけど無理して頑張ったことは<その1> で書いたので、今日は他の歌手たちについてですが、
オペラ三昧イン・ロンドン

       オペラ三昧イン・ロンドン


男の子ルジェロ


マグダの恋人のルジェロは素朴なおのぼりさんで、わーい初めてパリだーい!という高揚感でカフェで出会ったマグダに惚れて、お金の無心も結婚も承諾してくれる甘やかしの親を持っている恵まれたお坊ちゃま。深みの全くない分、美声だけが頼りの役なのだから、ごまかしは利きません。


ゲオルギューの実生活のハズバンドのロベルト・アラーニャは、ご存知かどうか、私が長年惚れこんでいるご贔屓のテノールなので、愛しのロベルトを大アップで観るのがこの日のお楽しみだったのでした。彼じゃなかったら、高い切符を買ってわざわざ週末にバービカンまで行かなかったかも。


2008年5月のバービカンでのリサイタル で4年振りに生で接したロベルトは、鬢に白髪があったものの充分若々しく、甘い声は相変わらず魅力的なアラーニャ節だったので、まだこの役もいけるかも、と期待は高かったです。


だけど、だけど、嗚呼、なんだかおっさん臭いロベルト様だったんですしょぼん


この役に関してはまだ2002年のROHでのほっそりとした若いアラーニャを覚えていてつい比較してしまう私が悪いのでしょうが、白髪は染めてたけど、リサイタルの時よりちょっと太ったみたいで、首がない! リサイタルの時の写真と比べてみて下さいよ~。そう思いませんか?


いえ、アラーニャが好きなのは声なのであって、ルックスは大してどうでもいいんです。だけど、この日は声が乾いてて、決して絶好調ではなかったのが残念。もしこれで初めてロベルトを聴いたとしたら、ホの字にはなりませんでしたね。


だから、皆さん、この日のパフォーマンスだけで、アラーニャを評価しないで下さいね。

                                               

宝石ブルー

というわけで、主役カップルが調子悪くて実力発揮できなかった失望のパフォーマンスでしたが、もう一組の若いカップルでかなり挽回できたのはこの日の収穫。

オペラ三昧イン・ロンドン
本詩人プルニエ

マグダの取り巻きの一人のプルニエは詩人だけあって洞察も鋭くマグダのこともよく理解している大人。プライドもあるだろうにマグダの女中と恋仲になり、彼女を女優に仕立てようと努力するあたり、なかなかのキャラで、出番も多いし、ルジェロよりこちらの方が役作りは面白そうです。


ゲイルギューと同じルーマニア人のMarius Brenciu、初めて聞く名前ですが、素直に伸びる若々しいリリカルな声がとても素敵で、私好みの声は二重丸。


でも貫禄不足で芝居も硬く、演技的にはプルニエの洒脱さが出せず。

要するに、年齢的にも声的にも芝居面でも、ブレンチューとアラーニャは役を交換した方がよかったんじゃないかと思います。


オペラ三昧イン・ロンドン
コーヒー女中リセット

Lisette Oropesaは、メトの若手育成プログラムの卒業生だそうですが、新しい鈴を転がしたような新鮮でよく通る声に聴き惚れました。


彼女が歌う場面はパーっとフレッシュで華やか。メトではきっとちょい役でよく出るんでしょうね、ニューヨークの人が羨ましいです。


幕間のインタビューでルネ・フレミングに、「ここでフィガロの結婚でスザンナ役の代役もやったし、あなたって女中さん役ばっかりね」、と言われてた通り、垂れ目で庶民的なルックスはたしかに貴婦人よりは女中さんがお似合い。でもこんなにキュートで溌剌でらくらくと高音が出る彼女は絶対に将来有望。


でも、これ以上太らないように注意しましょうね。フレミングやゲオルギューのようにいつまでもほっそり綺麗でいるのも映像オペラでは大事ですからね。


オペラ三昧イン・ロンドン
お金パトロンの銀行家ランバルド

マグダに高価なプレゼントはしてくれるし、「若いツバメに嫌気が差したらいつでも帰っておいで」、という気前がよくて寛容な地位も金もある中年男は「椿姫」にも登場しますね。もちろんオペラでは主役にはなれないキャラですが、現実には貴重な存在で、大事にしなくちゃバチが当たるってもんです。


歌う場面も少ないし、どうでもいいんですが、この日はかつてはメトの花形バリトンだったサミュエル・レイミーですから、一言言わせてもらいます。


レイミーさん、歌手は引け際が大事です。もう人前で歌うのは辞めて、後進に機会を譲りましょうむかっ


ROH2006年6月のトスカ のBチームのスカルピアもひどかったし、とっくにガタが来てるのは明らかじゃないですか? 


さすがに今でも存在感だけはあるレイミーさんほどの人がこんな脇役で出てくれてありがたいことです、って思う人もいるかもしれないけど、本人も醜態さらして惨めじゃないのかしらね?


旗指揮者

マルコ・アルミリアートは、こないだROHのトゥーランドットにクーラの代役で出てくれたファビオの兄弟(見掛けから判断するときっと弟でしょう)で、有名な兄弟に初めて接することができてハッピー。プッチーニらしいセンチメンタルさをスムーズに美しくまとめてくれて、文句なし。 


メモ

ということで、同じメトのライブビューイングなら「タイス 」の方が絶対お勧めですので、3500円もするし両方には行けないわと仰る日本の方は、まだやってるようですから、タイスの方に行って下さいね。


さて、私の次のメト生中継鑑賞は2月7日(土)のランメルモールのルチア で、ネトレプコ、ヴィリャゾン、キーチェンのトリオ。ヴィリャゾンはちょっと飽きたけど、ネトレプコのルチアはすごく見たいし、ROHのドン・ジョバンニ ですごく魅力的だったキーチェンのルチア兄も楽しみ。


ネト子ちゃん、風邪ひかないようにね。1年前のROH のようなことになったら怒るよ。


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