6月24日、旧東ドイツのドレスデンのゼンパー・オーパーでヴェルディのRigolettoを観ました。


直前にダフ屋から切符を入手したいきさつはこちら ですが、高くてもちょっと横ですが前から3列目という抜群な席が買えたのを旅行中ずっと「よかったね、よかったね」と言い合っていたのでした。


それはパフォーマンスが素晴らしかったからですが、おまけに舞台もモダンでスタイリッシュで動きがあり、ドレスデン到着早々、がーんと感動したのでした。


クリップリゴレットをご存知なくて、ご興味ある方はまずこの緑色箇所にお寄りください。


ヴィクトル・ユーゴーの原作が、オペラではどれだけ変わっているのかは知りませんが、せむし男のリゴレットは公爵家の道化役。自分が仕える好色の公爵に娘ジルダをてごめにされ、復讐に殺し屋を雇って公爵暗殺を諮りますが、公爵を愛するジルダはその陰謀を立ち聞きし、自ら身代りになって殺されるという悲劇。

娘のジルダはオペラ・ヒロインの不幸ランキングで上位入賞まちがいなし。幼い頃母親に死なれて修道院で育ち、3ケ月前に父親と一緒に住むようになったけど、このせむしのおとっつぁん、お前が一番大事だよとは言うけど、職業も隠してるし、自分の名前すら教えてくれない。その上監視付きで家から出してももらえない。だから、唯一許される教会行きで素敵な青年に出会ったことはもちろんお父さんには内緒。その青年が彼女の家を探し当てて訪ねてくれて愛を告白してくれたときは幸せだったけど、すぐにリゴレットに恨みを持つ人たちに拉致されてしまう。連れて行かれた先は公爵家で、僕は貧しい学生なんです、なんて嘘付いてたけど(ジルダが、そうだったらいいのにというのをもれ聞いたからだけど)、なんと彼が公爵。だから手篭めといっても、嫌だったばかりじゃなく、そのままそこで妾として暮らすこともできただろうに(こっちの方が絶対楽しいよね)、オヤジが怒って殺し屋まで雇っちゃうんだもの。そのままだと愛する人は殺されて、あとはこの親父と逃亡者として放浪するしかない・・・。そりゃ死にたくなるよね。

そう、すべてこのオヤジが悪い。リゴレットは道化師といっても他愛無いジョークで笑わせるのではなく、人の不幸をあざ笑って主人のご機嫌取りしてお気に入りの座を確保してるので、皆からやっかみと嫌悪感を持たれていて、リゴレットの家に女が住みだしたのを誰もが彼の妾だと思い込み、だから日ごろの恨みを晴らすためにその妾をさらって公爵に差し出そうと計画したわけで、誘拐はリゴレットの日ごろの行いから生じた災い。かわいそうなはジルダでござい。

一番許せないのは、皆の前で辱められて辛い思いをしてるジルダが「私、でもまだ彼を愛しているの。許してあげて、お父さん」と懇願してるのに聞き入れないこと。ほんとに自分勝手な偏屈親父だ!それにサラリーマンは誰だって嫌な思いをしてるけど、だからって雇い主を殺してちまって、老後の蓄えや再就職の目処はあるのか、お前は?


娘が身代りになって死んだとき、「呪いだ~!」と叫んだけど、そうじゃなくて、全部お前の責任だ!


この親娘に比べて若い公爵は全然難しくない役で、テノールはただ美声を張り上げてノー天気に歌っていればそれでよし。明るければ明るいほどリゴレットの暗さ惨めさが際立つし。美しいアリアも2、3曲あって得な役。





演出 Nikolaus Lehnhoff

指揮 Fabio Luisi


リゴレット(宮廷道化師)   Zeljko Lucic

ジルダ(リゴレットの娘)    Diana Damrau

マントヴァ公爵         Juan Diego Florez

スパラフチレ(殺し屋)    Georg Zeppenfeld

マッダレーナ(殺し屋の妹)  Sofi lorentzen




(舞台写真はクリックで拡大します)
  


  


     
  


舞台の様子はオペラハウスのサイトからパクった上の写真でご覧頂くとして(クリックで拡大)、パフォーマンスはどうだったかと言うと、


ロボットリゴレットのルチッチ2006年1月 のROHのトラヴィアータのジェルモンパパ役で素晴らしかったので期待は高かったですが、それよりもはるかに素晴らしくて、

スムーズで心地よく深い声で道化師を精悍にシリアスに演じて、ROHのガヴァネッリおじさんやホロスフスキーの漫画のようなリゴレットとはえらい違い。私、初めて生リゴレットの哀しみが胸に染みました。



口紅彼女じゃなかったらダフ屋から高い値段で買わなかったかもしれない程、ダムラウのジルダが一番聴きたかった私ですが、これもまたリゴレット同様、期待よりずっとよくて(期待は高かったんですよ)、感激しました。


「魔笛」の夜の女王や「1984」の体操のお姉さんで高音が濁りなく突き抜けるのは知っていましたが、中音低音もしっとりと美しく、おまけに清純な美貌で演技も細やか。今までで一番素晴らしいジルダでした。嗚呼、彼女のツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)を聴きたいなあ。
Juan Diego Florez in Dresden


王冠1マントヴァ公爵のフロレスも、これではリゴレットとジルダの熱演に負けてしまうかもと頑張ったのか、力入ってましたよ。彼の声がこの役にぴったりとも思えないのですが、さすが大スター、絶好調の高音をきれいに響かせて重みのないこの役に華を与えました。


因みに、フロレスの出ない日は、ROHのこの役ですごく良かったあのキムチ君 が出るのですが、歌はいいけど、お芝居ちょっとは上手になったかしら?



ドクロルックスは凄みがあってぴったりな殺し屋の歌は充分合格でしたが、その妹のマッダレーナが水準以下だったので有名な4重唱がちょっと残念でしたが、主役3人は上手だったのでそこまで求めるのは贅沢過ぎですしょう。



ROHでは高くてとても座れないような席からよく見えたのもさることながら、字幕を全く見なかったことも(ドイツ語だから理解できない)感動を増す大きな要因だったと思います。よく知っているオペラでも英語だとつい読んでしまったりするのですが、これからはなるべく避けることにしないと。


オケもテンポよく文句なし。


写真も撮り放題。フラッシュぴかぴかで、私たちは最後はオケピット間際まで近寄れました。


瓦礫から蘇った不死鳥のような美しいオペラハウスで素晴らしいオペラに接することができて、それだけでもわざわざドレスデンまで来た甲斐があったとすら思えた感動の夜に乾杯! 


                              







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